女たちが酒を飲み、酒を造り、販売する—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[禁酒編 7]-(松沢呉一)
「禁酒法が女の飲酒を促進した!!—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[禁酒編 6]」の続きです。
婦人キリスト教禁酒協会とフラッパーの階級差
女たちは禁酒法のおかげで酒を堂々飲めるようになって、密造まで始めたという話は痛快。フラッパーたちはスピークイージーで男たちと知り合ってセックスすることもできるようになったことも痛快。くだらない法律が道徳に抵抗する女たちを大量に生み出していったのです。
「How Prohibition Encouraged Women to Drink」に添えられた写真もサイコーです。
警察が踏み込んでくるかもしれないので、銃は手放せません。この不敵な笑み。なんちゅう悪い女たち、なんちゅうカッコいい女たちでありましょう。この写真は禁酒法が何もたらしたのかを雄弁に語ります。素晴らしい一枚。
ちなみに以下は禁酒法を進めた婦人キリスト教禁酒協会(WCTU)の写真。
Group of WCTU meet in Toronto 1889
トロント支部の写真なのか、米本部のメンバーがトロント支部を訪れたところなのかわからんですけど、こういう人たちってことですよ。フラッパーより時代が早いですけど、禁酒法制定の頃でもこういう格好をしていたはずです。男に気に入られるように、コルセットで締め付けて、大変ですわね。こういう服装に象徴される女の地位を固定しつつ、よりよくしようとしたのがこの人たち。体制内改革派。
ある意味、この写真も素晴らしくて、どういう層が禁酒運動を進めたのかが一目でわかります。日本の明治時代、女学校出の女たちが憧れた「働かないでも夫に食わせてもらう専業主婦」層。つまりは上流階級の人々です。こういう存在になるための学校が日本の女学校でした。
これを嫌ったのがフラッパーたちであり、ここまで出した写真でフラッパーたちのファッションを確認してください(ナチス・シリーズのこの辺にも出してます)。あばずれでしょう。彼女らは労働者階級や中産階級であり、自身、社会に出て働かなければならない層です。上級階級のはみ出し者もいたでしょうけど。
この話を知って、マフィアが禁酒法で勢力を伸ばしたのも、虐げられた層の逆襲だったと見ることができそうだと気づきました。これは今後気にしておきます。
酒を飲んでいる写真が多数残っている事情
数回前に書いた「守る動機のない法の無効性」を象徴するような話です。禁酒法なんて守れるはずがないので有名無実化し、女たちはそれまでも違法だった酒の製造にまで着手して、「法と慣習」のどちらも破って、酒を飲むわ、作るわ、売るわ、銃まで手にするわ。
守れるはずがない法律、多くの人が納得できない法律は無効化する上に、法体系そのものを無効化していきます。法で道徳を実現しようとするような連中は愚の骨頂。頭が悪すぎます。そんな法は破ればいいだけ。
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