貧乏人・低学歴・不具者は子どもを生むなと考えていた平塚らいてう—平塚らいてうの優生思想[4]-(松沢呉一)
「請願の背景にあった異様な思想—平塚らいてうの優生思想[3]」の続きです。
飲酒をも規制したがる平塚らいてうとそれに反対する与謝野晶子
以下は平塚らいてうがこの請願の意図を説明した『女性の言葉』収録「治安警察法第五條の修正と花柳病男子の結婚制限」より。
実際、人類をよりよくすること、即ちよりよき人間らを創造することが、生命そのものの意志だとすれば、そして人間が種族の奉仕といふことにもっと目醒めたならば、人間創造の大事業に従ほうとする結婚に際し、先づ健康診断を行はねばならないといふことはあまりに当然な義務ではないでせうか。そして真に善種学見地から言へば、花柳病のみならず、結核も、癩病も飲酒も癲癇其他の精神病も総て結婚を制限すべきものでなければならない。
与謝野晶子はこの文章を見て批判をしており、この部分には直接言及していないながら、平塚らいてうの思想はあまりに危険であることを見抜いていたのだろうと思います。
「結婚前に健康診断をしておいた方がいい。なぜならば、自分も家族も不幸になるからだ」というのであれば与謝野晶子も納得しましょうが、それが人類をよりよくするためであるとなると「ちょっと待て」になります。
ここでは「種族」とも言ってますが、これが「民族」になれば民族主義、「国民」であれば国家主義になるわけで、結婚も出産もそれらの集団のためであるという考え方は与謝野晶子には受け入れられなかったのではなかろうか。私も受け入れられない。
そして、かつて五色の酒を飲み歩いた人物が飲酒までをここに入れていて、酒飲みの結婚を制限することを主張しているのです。まさに矯風会。
酒を飲む人間さえも結婚を禁止すべきだと考えていた平塚らいてうに対して、与謝野晶子は「私は酒さへも絶対に禁じることに反対しておきます」と書いています(『女人創造』収録「婦人指導者への抗議」)。この一文は平塚らいてうとは関係がなく、贈答は無駄であると主張して、「節約」を呼びかける女たち(第一次大戦時に良妻賢母派の人たちが盛んにやってました)を批判したもので、功利的に無駄なものをなくせばいいという発想をする人たちは「芸術の無用をさへ説かれるのに到ることを怖れます」とし、そういった運動こそが無駄だとしています。
コロナウイルスで無駄なものを不急不要として排除する考え方が蔓延しましたが、「無駄が大好き」「生きること自体が無駄」と考えている私も与謝野晶子に賛成。無駄を排する社会は文化を否定し、人間そのものを否定するところに至ります。
竹内久美子レベルの平塚らいてう
飲酒に限らず、平塚らいてうは広い範囲で劣等な人々の結婚を禁止すべきであるとの考えを持っていたことを別の文章からも確認します。
以下は『女性の言葉』掲載「世界大戦に関する善種学」より。
社会員として適不適の問題はすでに戦争前からの問題であるが、今や一層真剣な問題になりつつある。四年前各文明国に於て、教育ある中流階級は用心深い結婚をし、又子供の数を制限し、その産んだ子供は出来る丈よく世話をし、大抵は完全な発達を遂げさせた。これに反し中流以下の階級に於ける不用意な、ふしだらな親達は妊娠をいかにして制限すべきかの知識を有たず、かくして望ましからざる子供を絶えず作りながら、それを十分に育て上げることが出来ない。その結果それらの子供は大部分は死ぬか、さもなければ不具者になって永久に社会の厄介者となる。詳しく言へば子供を造ることに於て用心と克己とを行なった人間の負担となる。
「世界大戦に関する善種学」という一文は、世界大戦によって何が起きたのかについて、ドイツを中心とした何人かの論者の説を紹介しながら自論を述べたものなのですが、どこからどこまでが誰の説なのかがわからない。批判的に出しているのでなく、平塚らいてうがこれに賛同しているからこそ出していることは明らかですので、以下、すべて平塚らいてう自身の考えとして扱います(これだけさまざまな論に目を通すくらいに優生思想に傾いていたってことです)。
ここに引用した話は優生思想に基づく産児制限においてよく出て来るものですが(こちらの論文によると元ネタはハヴロック・エリスのようです)、この短い文章の中にも矛盾があります。戦争に行かなかったふしだらな親が産んだ子どもは大部分が死ぬのだから、ここで淘汰がなされていて、中流階級の子どもばかりが残ります。これで話は終わり。アホくさ。
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