今現在ドイツのユダヤ人をもっとも迫害しているグループはネオナチではない—ポストコロナのプロテスト[17]-(松沢呉一)
「ムスリムにおけるアンチセミティズム(反ユダヤ主義)の浸透—ポストコロナのプロテスト[16]」の続きです。
※無料部分だけを読むと簡単に誤解が生じる内容なので、先に若干の注釈を入れておきます。すでに世界は紛争の時代に入っていて、これが拡大していくと、多数の難民が出るでしょう。難民を受け入れてきた国ではその反発や反省が高まっていますから、これ以上受け入れることはできないかと思います。となると、なお受け入れ余裕のある国が受け入れるしかない。
日本も受け入れるしかないし、人口が減少すると国が成り立たないので、その点でも受け入れるしかないのですが、周りに合わせることが絶対的な価値であるこの国では、難民は確実に排除され、レイシズムの餌食です。であるのと同時に、その人たちが内包するレイシズムを受け入れることにもなります。ここに書いている「ムスリムのユダヤ人に対するレイシズム」のみならず、世界中にはさまざまなレイシズムがあって、ホモフォビアの強い文化圏も多数あります。ムスリムだけでなく、キリスト教がホモフォビアを堅持している国についてはこれまでたびたび書いてきた通り。どこにだってある。
これとどう向き合って解消するのかを同時に考えていかない限り、難民受け入れなんて無理です。どういう問題が起き得て、どう対処すべきかのヒントを北欧諸国やドイツが見せてくれているのですから、ここから学習するしかない。「排外主義にもレイシズムにも反対だから難民受け入れ賛成」なんて簡単な主張では解決できないし、「ムスリムはユダヤ人に対するレイシズムが強いので、受け入れ反対」なんて話でもない。
ということを理解し、検討するための素材を提供しております。
ドイツのユダヤ人を迫害しているのは誰か
英語版Wikipediaの「Antisemitism in Islam」に出ているドイツのビーレフェルト大学(Universität Bielefeld)の調査グラフは衝撃です。
左のグラフが言葉による嫌がらせで、右が身体的暴力です。これは警察に届けたのかどうかとは別で、それらを受けたとする被害者が加害者をどう認識したのかです。こういう場合に使うのは適切ではないかもしれないですが、「目からウロコ」のグラフです。
どちらも圧倒的にムスリム(緑)が多い。言葉による嫌がらせはクリスチャン・グループ(青)がその次。そりゃキリスト教徒にとっても反ユダヤは根深いですから。しかし、さすがに彼らは暴力はふるわない。暴力になると極左(赤)が強い。言葉による嫌がらせと身体的暴力の両方合わせても極右(焦げ茶)より極左の方が多い。
左翼の反ユダヤはヴァイマル時代にもあった反資本家の文脈がひとつ。イエローベスト運動に見られる反ユダヤ主義もおそらくこれが強い。
もうひとつは反イスラエル、反シオニズムの文脈です。ドイツにいるユダヤ人にイスラエルに対する反感をぶつけるのはおかしいですが、現政権の方針を支持するユダヤたちも当然いますから、場合によってはイスラエル支持のユダヤ人とムスリムが喧嘩になって殴ったりしたようなものも入っているかもしれない。これは考え方の違いによる喧嘩でしかないので、レイシズムではありませんが、カウントされている可能性があることを踏まえておいてください。
ドイツのユダヤ人による反ユダヤ体験の報告書を読む
この調査のオリジナルはアンドレアス・ジック(Andreas Zick)ビーレフェルト大学教授による「Jüdische Perspektiven auf Antisemitismus in Deutschland Ein Studienbericht für den Expertenrat Antisemitismus」で、全文公開されています(独語PDF)。
タイトルは「ドイツにおける反セミティズムに関するユダヤ人の見方 反セミティズムに関する専門家評議会の調査報告」(自動翻訳)。イスラムの反ユダヤ主義だけを対象にしたのではなく、ドイツに住む16歳以上のユダヤ人533人を対象に、自身の経験をオンラインでインタビュー調査をした結果です。
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