松沢呉一のビバノン・ライフ

「Wikipedia読書」のススメ—本にまつわる権威と幻想[7]-(松沢呉一)

「Wikipediaは間違いだらけ」はどこまで本当か—本にまつわる権威と幻想[6]」の続きです。

 

 

最近の事象については間違いが増える

 

vivanon_sentence前回見たWikipediaと百科事典との誤記率比較の記事ではそこまで触れてませんでしたが、Wikipediaではブリタニカに掲載されていないような地名、人名、事象についての項目が多数あり、昨日今日の話も書き込まれます。こういった情報には安定性がなく、それらまでを含めた数値を出すと、もっとWikipediaには間違いが多くなりましょう。

たとえばWikipediaには、百科事典に出ていない大学や専門学校、高校まで出ています。百科事典に出ているような有名な学校については、一冊まるごと本が出ていたり、校史がまとめられていたりもして、情報の蓄積による誤記の排除が自然となされてきていましょうし、その裏取りも容易ですが、小さな学校だとそれがないので、間違った記述が出やすい。

また、最新の情報については書き込んだ時点では間違いではなくても、時間とともに事実が明らかになったり、研究が進んだりして、内容に間違いが生じてしまうことがあります。明らかに関係者やファンが宣伝のために項目を立てているために、宣伝文らしい誇大な記述になっているのも見られます。

よく「Wikipediaはいい加減」と言いたがる人がいますが、最近のアイドルとか、漫画とか、テレビ番組とか、安定性のない項目ばっかり見ているんじゃなかろうか。その範囲では事実です。

※エチオピアのアムハラ語版Wikipedia

 

 

Wikipediaに教えられたこと

 

vivanon_sentence何度でも言いますが、英語版や独語版で、ナチス関連の項目を調べてみ。その充実ぶりには驚嘆します。本を読むしかない事柄もある一方で、本ではわからない事柄でも知ることができます。もちろん、それらにも誤記が潜んでいる可能性はありますが、それは本でも同じです。ナチスの本については、私程度の知識でも間違いを見つけることがあるくらいです。

どうしても間違いが増えるとしても、広く一般には知られていない人物や事象についての項目があることがWikipediaのよさですから、この点はメリットの方が大きい。

ブリタニカで項目になっているナチス幹部の名前は30人から50人くらいじゃないでしょうか。英語版と独語版のWikipediaでは軽く100名を超えます。看守の名前や収容所名も同じです。だから使える。

少なくとも時間が経って検証が進んでいる項目について、これほどまでに精度が上がったのは、無料であるだけに多数の人の目に触れ、間違いに気づきやすく、誰でも直せる特性のおかげです。また、各国語版があるため、その事象にもっとも適切な記述ができる国の人たちが書いていて、それが各国語版に反映されことも利点です。反映されていないこともあるし、項目自体が別の国では作られないこともありますが、自動翻訳を使えば元の国の記述が読めます。どんだけ便利か。

※ブルガリア語版Wikipedia

 

 

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