認知的不協和と正常性バイアス—パンデミックとメディアの関係[5](最終回)-(松沢呉一)
「不安になる情報に食いつく人々の心理—パンデミックとメディアの関係[4]」の続きです。
正常性バイアスの典型とされる写真だけれども
新型コロナウイルスで不安になって、外にも出られなくなっている時に、私のような意見は自分の現在を肯定してくれず、それよりも「日本だけで数十万人が死ぬ可能性がある」「変異を起こして、若い世代でもバタバタ死ぬ」「来週にはニューヨークのようになる」という情報の方が現在の自分との親和性が高いのです。「だから、私は外に出られなくなったんだ」と納得できる。
災害時に流れるデマに食いつきやすいのもこれでしょう。不安な状態にいる人は「井戸に毒を入れた」「外国人窃盗団が暗躍している」という話をあっさり信じてしまう。
一方でパニックのありようとして、これとはきれいに逆転した出方をするのが「正常性バイアス」です。災害時に、周りで起きていることを過小評価してしまう心理です。
20142.2.14付「ハンギョレ新聞」より
2003年、韓国であった地下鉄放火事件の写真で、正常性バイアスを説明するものとしてよく使用されています。192名が死亡した事件の写真としてはたしかに異様な光景です。「早く逃げろ」と言わないではいられなくなりますが、ちょっと注意が必要。と一拍置くのが私のいいところです。
結果から導き出す見方では現実をとらえられない(ことがある)
多数が亡くなった結果から導きだせば、この乗客たちは異常に見えますけど、ハンギョレ新聞に書かれていることを検討すると、そんなにおかしな行動ではないことがわかります。
ドアが閉まった状態で、「そのまましばらくお待ち下さい」というアナウンスがあったためにこうなったものであり、「急いで逃げてください」というアナウンスがあればまた別だったでしょう。
逃げるとしたらドアをこじ開けるか、窓ガラスを割るしかない。「そのまましばらくお待ち下さい」というアナウンスは、「間もなく動き出します」ということを示唆しますから、そんな時に窓ガラスを割ったら捕まって、賠償金を払わなければならなくなるかもしれない。場合によっては窓ガラスを割ったことで運転再開ができず、さらに多額の賠償金を払わなければならなくなるかもしれない。
しかも、彼らは他の車両が火だるまになっていることまではわからない。そんな時は車内アナウンスを信用するってものです。
現にこの写真を撮った人はこのあと脱出して、ガスを吸い込んで病院に運ばれたとは言え、助かってはいますから、この車両は死者が出るような状況ではなかったのではなかろうか。ここは記事からははっきりとはわからないですけど。
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