ドイツの「Bild」と日本の「羽鳥慎一モーニングショー」—パンデミックとメディアの関係[3]-(松沢呉一)
「恐怖を煽る報道とフェイクニュース—パンデミックとメディアの関係[2]」の続きです。
メディアは恐怖を煽ったのか
死ぬかもしれないウイルスはどうしたって怖いのだけれど、怖がり過ぎはロクなことにならない。怖がり過ぎた世界が選んだ結果が、今現在の世界です。それを「ポストコロナのプロテスト」シリーズで見ているのですが、年寄りと病人が死ぬウイルスよりも今現在世界で進行していることの方がはるかに恐い。
年寄りと病人の対策は可能なのに対して、今現在世界で進行している紛争、国家主義や民族主義の台頭を今から抑えることは相当に難しい。こうなることは明らかだったのに、なぜ世界はこんな選択をしてしまったのでありましょう。
改めて検索してみると、2月くらいの段階で「恐怖を煽るな、冷静になれ」という報道が各国でいくつも出ています。恐怖にかられるとレイシズムや排外主義、全体主義に走るという指摘もなされています。これ自体が恐怖を煽る報道と言えるかもしれないですが、冷静になるための警鐘ですし、歴史的に見ても間違いがなくて、なおかつ今現在の世界状況を見ても、正しい読みだったことははっきりしています。
報告集「CoViD–19 and the Media: Devastation or Renaissance?」では、この点につき、国によって(報告者によって)評価が違っています。韓国のように、恐怖を煽った報道があったことを前提に、それをどう評価するかは定まっていないとしている国もありますし、ドイツでは、批評家が「メディアが煽動している」と批判していたことに反して、一部メディアを除いて、そのような傾向はなかったとの調査結果がなされたとあります。どういう基準で判定したのかわからず、該当する調査を探したのですが、見つかりませんでした。
私もいくつかの国の報道機関が扱っているテーマがある時に、ドイツのDW(Deutsche Welle)は優先して観る、あるいは読むメディアのひとつになっていまして、DWは理性が働いていて、信用できる印象はたしかにあります。しかし、DWは国営放送ですから、ドイツのメディア全体は語れないでしょう。
この記述の中で例外として具体名が挙げられているのはタプロイド紙の「Bild」です。ここだけは不要に恐怖を煽ったのだと。
「Bild」は下世話な話題を下世話な切口で報じることを売りにし、かつては一面にヌード写真を掲載。批判されて、現在は中に掲載されていて、日本の新聞で言えば「東スポ」、雑誌で言えば「アサ芸」といったところです。
こういうメディアはこういうメディアとして読めばよく、娯楽としてはいいとして、正確な情報を得たい時は日本でも「東スポ」「夕刊フジ」「日刊ゲンダイ」は読まないでしょう。テーマ次第か。
「Bild」もそういう扱いのメディアなのでしょうが、ヨーロッパで一番売れている新聞なので影響力がありそうで、部数を見ると、例外として扱って「ドイツのメディアは恐怖を煽らなかった」と結論を出すのではなく、まったく逆の結論が導き出されそうです。
日本で「Bild」に該当するのはワイドショー
では、日本のメディアはどうだったか。
私はリアルタイムに国内の報道を念入りには見ていなかったですが、それでも「ニューヨークでは若い世代がバタバタ死んでいる」「日本もニューヨークのようになる」といった報道が目につきました。若い世代に責任を押しつけようとするメディアも目につきました。読むとこういうのばっかり目に入るので、国内報道を避けていたところがあるのに気づいてしまう。日本で恐怖を煽る報道がなかったとは言わせない。
それが事実ならいい。視聴者や読者が恐がるからとして事実を報じることをためらってはいけない。そういえばトイレットペーパーの報道だけは念入りに読んでましたが、トイレットペーパーの買い占めでは、それを報じることでパニックが広がる結果をもたらす現象が今回は見られました。これは厄介ですけど、事実である限りは、また過剰でない限りは報じていいと思います。
ただし、しばしばメディアはトイレットペーパー買い占めのきっかけになった投稿をデマと決めつけていて、デマとは言い難いものだったと私は認識していますので、その点につき問題はあったかと思いますが、ここは検証をさぼっただけとも言えて、さほど悪質とは思えない。デマと決めつけられた側はたまったもんではないですが、謝罪、訂正すればいいんじゃないですかね。してないと思うけど。
しかし、視聴率がとれ、雑誌の部数が伸び、ネットのアクセスが増えるからと、意図的にデマに基づいてやったらおしまいよ。
※テレビ朝日のサイトより組織図の一部
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