チュニジア革命(ジャスミン革命)から10年目のプロテスト—ポストコロナのプロテスト[112]-(松沢呉一)
「半世紀にわたる闘いで中絶の非犯罪化を達成したアルゼンチン—ポストコロナのプロテスト[111]」の続きです。
2週間で千人以上逮捕のチュニジア
独裁者ベン・アリ(زينالعابدينبنعلي)を追放したチュニジア革命(「ジャスミン革命」という名称はチュニジアでは使用されていないとのこと)から10年目の今年、チュニジアでは激しくプロテスターと警察がぶつかっていて、すでに千人以上が逮捕されています。
以下は先週土曜日のプロテスト。
逮捕者を釈放せよと要求しています。これでまた逮捕されそう。
もともとはコロナ規制に対するプロテストですが、警察の暴力や政府の腐敗もテーマになっています。
ここでの腐敗は、チュニジア革命の一因ともなった汚職をおもに指しています。その改善が遅々として進まない。
倒しても倒しても権力は腐敗し、権力の座を維持するために国民を弾圧するのであります。誰の言葉だったか忘れましたけど、「権力は腐敗する。絶対権力は絶対に腐敗する」って言葉は「腹ぺこはどんな料理もおいしくする」って言葉と並ぶ人類の普遍的真理です。子どもの頃から知っておいた方がいいので、小学校の廊下に貼り出しておくといい。
誰の言葉か気になって今検索したら、英国の歴史学者ジョン・アクトン(John Emerich Edward Dalberg-Acton)の言葉でした。知らん人じゃった。正確には「権力は腐敗の傾向がある。絶対的権力は絶対的に腐敗する」(Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely)。
「腹ぺこはどんな料理もおいしくする」は一般には「空腹は最良の調味料」というフレーズで定着しているようで、これを言い出した人が誰かは諸説あり。誰でも言うべ。
では、チュニジアのプロテストを改めて見ていきましょう。
チュニジアの夜
1月15日から大規模プロテストが始まって、4日目(1月18日)の夜。
催涙弾を斜め上に撃っていて、平行撃ちをしていないのは感心だと思ったのですが、距離があるためですね。そうしないと遠くまで届かない。他の動画では近距離の平行撃ちをしてました。
ここに出ているカイス・サイード(قَيسسَعِيد)大統領は法学者で、2019年に大統領選に立候補して当選。政治的にも道徳的にもいたって保守的であり、同性愛にも反対を明言しています。この点はアフリカの標準、イスラム圏の標準に過ぎませんが。
上の映像の中で「午後4時から外出禁止では仕事も探せない」と若者が言ってます。その分、人がいらなくなりますから、雇用が減るのは必然ですし、当然会社や店は潰れているでしょう。
外出禁止時間は州によって違います。
4月から規制が始まり、公共交通機関でのマスク着用も義務化され、最大20万円弱の罰金と最長6ヶ月の懲役です。罰金としてはチリに次いでもっとも厳しい部類ですが、チリは懲役刑はないので、チュニジアは世界のトップクラス。殺される国やリンチされる国、市中引き回しになる国もありますが、それは法の範囲外。
5月にいったん規制はゆるめられますが、8月以降再強化。しかし、適用される場所はこれ以降も公共交通機関と公共の屋内施設に限られていますので、適用範囲はチリより狭い。そのため。屋外では投石をする時以外、ほとんどマスクをつけていないかと思います。大統領もつけてません。
夜間外出禁止は10月からいくつかの州で始まっていて、この時は午後8時から。これが全州に拡大され、12月から2州で午後4時からになっていて、これは紛争を抑えるためだったようです。コロナのせいで、国民の行動を規制することに躊躇がなくなる。
※2020年5月15日付「The Aarab Weekly」 5月に規制が緩和された時の記事です。マスクについて触れているので、それに合った写真をあえて使っているのでしょうけど、屋外での着用は義務化されていないにもかかわらず、マスクをしている人が多い。もうひとつ注目すべき点があります。次回参照
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