松沢呉一のビバノン・ライフ

オーバーツーリズムを解消するために—観光客に見る国の特性[前編]-(松沢呉一)

 

マナー違反をなくすことはできなくても減らすことはできる

 

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日本人観光客も他国で迷惑行為—警察のボディカメラと肖像権」でも確認したように、中国人だけがマナーや法律を守れないのではなく、日本人もかつて農協のツアーが世界各国で迷惑をかけまくってましたし、遺跡に落書きをして問題になったのも一度や二度ではありません。沖縄のサンゴに落書きをした新聞社のカメラマンもいましたしね。

記憶に新しいところでは、2008年、フィレンツェの世界遺産サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の壁に落書きをした岐阜市立女子短期大学京都産業大学の学生たちがいました。

これをやってはならないことがどうしてわからないのか不思議ですし、大学名と名前を自分で書いて特定班の手間を省くのも理解不能。事実、フルネームまで晒されました。

しかし、岐阜市立女子短期大学の学生は現地にまで謝罪に行き、修繕費を出し、許してもらえたので、深追いする必要はなし。

こういった事件の記憶が残っているうちは自重しましょうが、そのうちまたやるのが出てきます。万引きを完全になくすことが不可能なのと同じく、一定数こういうのが出てくるのは防ぎようがない。

しかし、数は減らせます。中国人のマナーの悪さが世界中で叩かれて、中国政府でさえもマナー向上を図るしかなくなったことはここまで見てきた通り。少なくとも大都市では改善されつつあって、あと100年もすれば中国全土で列に並ぶことができるんじゃないでしょうか。

✳︎2008年6月27日付京都産業大学「イタリア、フィレンツェの「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」への本学学生の落書きについて」 学長名による事情説明と謝罪文。

 

 

観光客を減らす方法

 

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ただ、オーバーツーリズムの諸問題は、観光客にマナーを求めても解決できない点があります。例えば、観光客で交通機関が満員になり、通勤・通学の際、あるいは買い物や病院に出かける際に、地元民が利用できないとか。便数を増やす、臨時便を出す、といった対処法もありますが、限界がありましょう。トイレも同様。長い列ができていて漏れそうになったら、その辺でやります。私もそうします。

そうすると、ヴェネツィアのように、市内に入るために金を徴収することで、観光客の数を減らす方法くらいしか考えられない。

そして、富士山も有料に。

 

 

上限の4千人として、1日800万円です。人件費などの経費は数パーセントでしょうから、悪くない。5合目までは行けますし、他のルートもありますから、文句言いっこなし。私は賛成です。

道になっていないルートから関所を回避するのもいそうですが、足を滑らせて首の骨を折れば、世界に向けて、いい教訓になるでしょう。

観光客にとっても、人が多いと楽しくないので、賢い観光客は、有名な観光地を避けて、知られざる秘境を目指しますが、「知られざる」と言っても、どうせガイドブックや雑誌の特集、SNSの情報に頼るわけで、最近では、観光地ではないスポットにまで人が殺到することが増えてます。アニメの聖地だったり。

観光地だったら、金が落ちて税収も増えますから、観光協会や観光課が対応することもできるでしょうが、観光地じゃない場所だと、旅館やホテルもなく、土産物屋もない。タクシー利用者は増えそうですが、中国人は中国人の違法白タクを利用しますから、ごみをばら撒かれ、大小便をその辺でされ、物が壊されるだけです。

 

 

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