厳然と存在する男女の差—広告苦情の類型化と広告表現の許容範囲に関する実証的研究[下]-(松沢呉一)
「「赤いきつね」騒動で浮上した苦情の男女差とその適切な対応—広告苦情の類型化と広告表現の許容範囲に関する実証的研究[中]」の続きです。
白雪姫の頬は赤い、レイチェル・ゼグラーの頬も赤い
前々回書いたように、池内裕美+前田洋光「広告苦情の類型化と広告表現の許容範囲に関する実証的研究」の分析が「赤いきつね」のCM炎上にそのまま当てはまると断定することには慎重になりますが、そのことを考慮しないとしても。「赤いきつね」のCM批判には大きな疑問があります。
私の見た範囲で、批判の多くは「頬が赤い」といったような、しょーもない点をあげつらうものでした。そんなことを言ったら、赤い頬をしているものをすべて批判しなければならなくなり、ずーっと言っているように、とくに漫画やアニメはステロタイプな表現が積み重なってきていますから、それらを全否定するしかなくなります。漫画やアニメを憎悪する人たちはそれでいいのでしょうが、お前ら、一生、漫画やアニメを見るなよ。
現在叩かれまくってる実写版「白雪姫」ですが、もともと白雪姫の頬はしばしば赤い。
ディズニーのサイトより白雪姫
では、不評の実写版「白雪姫」。
ポスターでは脇役扱いのレイチェル・ゼグラーは小さくてよくわからないですが、主演扱いのガル・ガドットの頬は赤く見えます。これは頬をこけさせてきつい印象にするためのメイクであって、赤くしているのだとしても、ファンタジーであり、昔話ですから、やむを得ないとの言い分が成立するかもしれません。
では、以下のレイチェル・ゼグラーは?
2024年1月15日付「PR TIMES」より
赤いですね。唇も真っ赤。女アピール全開。
この写真はディオールが提供したものと思われます。ファッション関連やコスメ関係の広告ってこういうもんです。これが性的ですか? そうかもしれないですね。しかも、こちらは現実の存在にこれをやらせています。アニメより先にこっちを攻撃するのが筋でしょうに。
それはそれとして、レイチェル・ゼグラーは「史上もっとも嫌われた女優」「史上もっとも映画をコケさせる女優」の座に君臨し、それでも知名度は抜群なので、今後も予算の少ない映画や舞台の依頼はあるでしょうが、どこにも出演する場がなかったら、「月刊 生き違い新聞」に出てはどうでしょう。ギャラは3千円。
自分で考えることができない連中
少数派ではありますが、「赤いきつね」と「緑のたぬき」で、女は家でドラマかアニメを観て涙を流し、男は残業している設定になっていることに、男女の役割分担をなぞっているとの批判もありました。これもステロタイプ。同意するかどうかは別にして、こちらはまだしも理解できますし、「赤い頬は性的」という決めつけと違って、客観的に説明が可能です。
なのに、なぜそちらでなく、「頬の赤さ」なんて主張した人が多かったのでしょうか。
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