ヴィタリー・ズドロヴェツキーを契機にフィリピンで高まるインターネット規制の声—法で迷惑配信を封じることの難しさ-(松沢呉一)
ヴィタリー・ズドロヴェツキーは懲役25年?
フィリピンで逮捕されたヴィタリー・ズドロヴェツキーは、最大懲役25年になると報じられています。これはジョニー・ソマリが懲役16年になるかのように言われているのと同じで、いくつかの容疑を単純に加算したものであって、どう頑張ってもせいぜいこの5分の1程度が妥当な範囲じゃないでしょうか。と感じるのは日本の感覚であって、実際どうなるかは知らない。
ヴィタリー・ズドロヴェツキーは現在入管の収容施設に入れられていて、外国籍の場合は拘置所代わりの刑務所に収監されるわけではないのかも。惜しいな。
いずれにせよ、フィリピン国民だけでなく、国外からもフィリピン政府を支持する声が多数届いているので、政府の姿勢は変わりそうになく、これから数年は辛い日々を送ることになりそうです。
それはいいとして、これを契機にSNSや配信サービスを規制する声が高まっていることがちょっと気になります。これ以前から、フィリピンではフェイクニュース対策が論じられていて、政府の見解としては、いきなり法で処罰するのでなく、「運営会社に対して自主規制を求め、それが実現されなけば、法で規制する」というもの。
ヴィタリー・ズドロヴェツキーの件で国民の怒りが頂点に達し、一足飛びに「法で規制しろ」との声が出ています。まあまあ落ち着け。フェイクニュースと迷惑配信は別に論じた方がよく、迷惑配信については、現行法で最大25年の懲役にできます。この数字は怪しいとしても、懲役5年は可能であり、フィリピンの刑務所内でも彼の味方になるのはいないでしょうから、過酷な牢獄生活になるのは必至であり、遺体になってシャバに出ることになるかもしれない。
今後も既存の法に沿って、厳しく運用することで十分対処できます。だったらそうした方がいい。日本も同じで、警察と検察、裁判が外国人の迷惑配信者が厳しく対処すればいいだけ。それができないから困っているわけですが、そこが変わらないと、法では対処できません。
✴︎2025年4月8日付「Philippine Information Agency」 フィリピン情報局のサイト。写真は大統領直轄のコミュニケーションオフィス長官。SNS規制に関する政府の見解を語っています。
迷惑配信を法で規制することのリスク
日本でもすぐにインターネットの規制を求める人たちがいますが、現行法で対処できないことを新たな法で対処するのはいいとして、法があるのに運用されていない場合に法の強化をしたって、何も変わらない可能性が高い。
むしろ、法によって、本来の目的ではない行為に拡大される可能性もあります。政治家にとって都合の悪い書き込みを通報させて晒し、その支持者たちが自宅まで嫌がらせをする韓国の李在明みたいな政治家がいるわけです。李在明が大統領になったら、気に食わない言論はすべてフェイクとして規制するでしょう。
そこまで至らないとしても、公道で撮影することを広く規制することになるのもまずい。いまさら車外を撮るカメラを自動車に搭載してはいけない、観光客が渋谷のスクランブル交差点を撮ってはいけない、建物から外に向けた防犯カメラを設置してはいけないなんてことは不可能です。
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