後悔と反省を果てに再認識したプロ野球選手としての在り方ーー山川穂高5か月の回り道ーー
暗い表情と沈んだ声を聞いて、涙が出そうになった。
自身が招いた顛末とはいえ、明るいキャラクターと雄弁な語り口が持ち味の男の姿がどこかひ弱に見えて、悲しさばかりが募った。
実に5ヵ月ぶりに、山川穂高が公の場に姿を現した。
久々にみたスーパースターが朽ちていくさまは、「見たくないものを見せられている」。そんな感覚に陥った。おそらくライオンズファンが、ひいてはプロ野球ファンが感じている山川への落胆は、言うなればそういう感覚なのかもしれない。
信じていた者から裏切りを受けたような。
「僕のしてしまったことなので、そこから目を逸らすのではなくて、もう一回自分の目でちゃんと、自分への批判を全部見て真摯に受け止めて反省し、これからの取り組みにつなげていくしかないと思っています」
自ら開催を希望したという記者会見において、山川はメディアからの質問に努めて丁寧に答えていった。
何かに不満を口にすることはなく、すべての現実を受け入れる覚悟を持っているようだった。
この5ヵ月は山川にとって、ここ数年までの人生とは大きくかけ離れた時間となったに違いない。世間から厳しい視線にさらされ、思うような活動もできない。大好きな野球を失ってしまったことで、ことの重大さを理解しただろう。
なぜ、人は道を間違えるのか。
トップアスリートとそれ以外の選手の差は、才能にはない。
取り組みや日頃の行動、人間性にあると思っている。成功したものに共通するのは圧倒的な才能ではなく、人としての行動だ。スーパースターが尊敬されるのは、大金を稼いで贅沢三昧しているからではなく、常人には到達しえない人間的な境地に辿り着いているからだろう。
道を踏み外すものは、人としての最高点に到達することはできない。
ただ、山川穂高という人物はその到達点に足るだけの人物だと思っていた。
だからこそ、その落胆も大きいのだろう。
山川は言葉を選び、今の現状をこう受け止める。
「我々(プロ野球選手)は夢を与える仕事だと思っていますので、人に期待されて応援してもらって初めて僕たちが成り立つというか、輝ける。そういうふうに常々思っていますので、 こういうことをしてしまうとその人たちの期待を大いに裏切ることになると思います。なので、その期待されて裏切られたという気持ちが大きければ大きいほど、こういうふうになるとは思っています」
目標に対して一直線であれば、そこに辿り着くまで最短距離で歩みを進めることができるはずだろう。しかし、道を外してしまう者は、えてして遠回りをしてしまう。
プロ野球を取材していると、目標への方向が一直線ではない選手を数多見かける。やるべき時に何をすべきかの判断ができずに、回り道をしてしまうのだ。そこに気づければ目標達成に近づくが、多くの場合はそうならずに球界から消えていく。
山川も一度は栄華に近づいたものの、道から逸れた。
それまでの居場所が快適であっただけに、およそこの5ヵ月、山川の人生は栄華をつかむ以前よりもどん底であったであろう。しかし、負い目を背負うことこそが、自身がしでかしたことの意味を理解するということでもある。
長い時間、批判の嵐にさらされただけでなく、多くの現実を見たに違いない。チームの看板や広告塔から自身の名前が消え、出身校のOB名簿からも外されるようなこともあった。
事情があってのことだが、残酷な現実だったに違いない。
一流になれない選手の特徴を先述したが、ただ、彼らは野球において道を間違い、正しい努力ができなかった人間だ。しかし、今回の山川は違う。野球以外の行動で、道を外してしまったのだ。アスリートとしてこれほどの無駄な時間はない。
直接聞いてみた。この時間は何をもたらしたのか
山川はしばらくの沈黙の後、言葉を絞り出した。
「先ほども言ったんですけど、夢を与える仕事というのを再認識しないといけないなと。自分だけの夢じゃないというのを改めて感じました。今回の件でいろんな人に大きな迷惑をかけていますし、自分のわがままな気持ちとか、そういうのだけで行動したり発言したり。そういうのをしてはいけないんだと。改めてこの5ヵ月で感じました」。
この言葉に感激したわけではない。
期待の分だけ、裏切りも大きかった。その事実は消えない。
だが、やはり5ヵ月ぶりに山川の顔を見て、怒りの感情を持つ気になれなかった。
試合に出られないことがわかっていても、練習場に足を運び、若手の悩みにも答えてきた。5ヵ月の間、人知れず続けてきた彼の行動は誰でも真似できるものではない。
この男に、もう一度、かけてみたいと思った。
「夢」を与える人間である。そう、信じてみよう。(2023年10月6日 digest Web)
〜編集後記〜
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