ブーイングではなく、あくまで戦いの中で互いを高め合う。森友哉と髙橋光成が見せた野球人の矜持<SLUGGER>
駐車場には元バッテリーによる独特な空気の会話が行われていた。
「まっすぐ速かったわ〜」
「いやいや、もう次、スライダーにはタイミング合っていたでしょ」
3月31日の開幕戦。オリックス勝利の立役者・森友哉が球場を後にしてバスに乗り込もうとした時だった。この日の西武の先発・高橋光成を見つけると二人は歩み寄り、互いの感想を語り合っていた。そこには元チームメイトであることだけでなく、野球人としての濃密な会話が繰り広げられていた。
「やっぱり、ボールを受けるのと打席に入るのとでは全然違いました」
今季からオリックスにFA移籍した森は今季初対戦となった西武投手陣の印象をそう振り返った。「どんな球種を持っているのかは分かるけど」という前置きがありながらの言葉だが、森にとって、新鮮と言える対決は彼を選手として一段階あげる機会になったに違いない。
西武の初戦先発の高橋や3戦目の平良海馬という好投手とずっと同じチームで合ったら対戦はなかった。今後、球界のトップクラスの投手に並ぼうとする彼らと対戦できることは森にとってまたとない経験になった。
FA移籍というと悪く言われることが多い。
「育ててくれたチームへの愛情がない」、「裏切り」、「お金で動いた」などと揶揄され常に批判の対象になるが、少なくともこの日、ベルーナドームの駐車場で交わされた彼らの会話は外野の声をシャットアウトするくらいに中身のあるものだった。
実際、対戦できるからということではなくても、FA移籍にはいろんな効果が選手にはある。それは森の試合前練習からの姿勢にも見て取れた。
イの一番にグラウンドに出てきてストレッチを始め、バットを振り始める。そこには新人選手のように、がむしゃらに練習する森の姿があった。高校時代から森友哉を見てきているが、彼にとって、この移籍がマンネリ化しかねなかった彼の行動を変えうるものになるという気がしてならなかった
試合前のバッティング練習終了後には裏方やスタッフ、グラウンドにいる全員で行うボール拾いに、森も加わっていた。新人のようにテキパキ動くというわけではないが、今の彼にとって何が大切かを理解して行動しているのは明らかだった。
そんな森のバットは初戦から振れていた。
高橋のコントロールが絶妙だったから完璧に捉えることはできなかったが、スイングの鋭さと獲物を捉える野生児のような眼でボールを待つ森の打席でのアプローチは怖さを秘めていた。
そして、その舞台は森に用意されていたかのようなシチュエーションでクライマックスを迎えた。
9回2死、1点ビハインドで迎えたオリックスは森が打席に立っていたのだ。いわば、西武側からすれば「最後の打者」に森と対峙していたと言うわけだ。
ここで森は快心のあたりを見せる。
初球のスプリットを捉ると右中間最深部に同点弾を叩き込んだのである。
「(スプリットは)狙ってないです。今日は全体的に積極的に行こうと思っていてタイミングがあったら振りに行くという感じで対応していました。去年までプレーしていた西武ドームで活躍できて良かったですね」
ホームランを打った相手投手はルーキーで初対戦。それ以外も元チームメイトだっただけに、どういう球が来るか分からなかった。だから、森は積極的に振りに行くことでタイミングを合わせようとしていた。移籍して初対戦という難しさのある中での最高の結果は流石の一言だ。
2戦目は9−2と完勝。3戦目は投手戦で推移しながら最後は粘り負けしたが、2勝1敗は好スタートを切ったと言えるだろう。森自身は西武ファンからのブーイングも浴びる場面もあったが、意に介さず、こう前向きに語った。
「ブーイングを浴びるのは、それだけ去年まで応援してくれていたということやし、どうのこうの思うことはないですね。(元チームメイトとの対戦は)キャッチャーとしては難しかったです。ベンチで見ているのと、マスク越しで見るのとでは違いましたし、駆け引きとかも難しかった。キャッチャーは勝って評価されるポジションなんで、連勝したかったですし、なんとか最小失点で抑えたいというのはいつも思いますね」
古巣との対戦でまた感じることも多かっただろう。プレッシャーもありながら結果を残そうとすることが、また、森を選手としてレベルアップさせるに違いない。試合後チームメイトとの会話も、そこに遺恨もなく語り合うことができるのも、野球人という括りの中では、内も外も関係ないのだろう。
見ている方も楽しめる森友哉と古巣の対戦はこれから幾度もある。
ブーイングではなく互いの成長を確認する。
少なくとも駐車場で交わした二人の会話からはそんな野球人としての互いの矜持が見られたシーンでもあった。(4月4日)
編集後記 「僕はまた彼らに魅了された」
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