通算400ニ塁打を達成した西武・栗山巧の「限界突破」思考。「僕のやれることは自分の打てる球を打ちに行く」
西武が3ー4でヤクルトにサヨナラ負けを喫した。
この試合で一時勝ち越しとなる適時打を放ったのがこの日、1軍復帰を果たしたばかりのベテラン・栗山巧だった。
通算400二塁打を達成するメモリアルなタイムリーヒットだった。試合は惜しくも敗れたものの、栗山選手の一打に熱いものを感じたのは筆者だけではないだろう。
好打者と知られる栗山はチームの精神的支柱として長くチームを支えてきた。
好調でなくともここぞの場面で決定打を放つ栗山の思考とはどんなものだろうか。
今回は同サイトの編集長が2021年に上梓した「baseballアスリートたちの限界突破」より栗山巧の章を一部抜粋して紹介する。
人間には好不調の波があると思います。
アスリートに限らず、仕事をしていて体調が万全で企画がバンバン出てくる時もあれば、何をやってもうまくいかない。そういう時はないでしょうか。
2021年シーズン、球団としては初めてとなる通算2000本安打記録を達成し た西武の栗山巧選手は好不調の波が比較的少ない選手として知られています。 生涯打率は、2021年9月現在で282、出塁率は372をマークしています。年度別の成績では突出する数字は残していないのですが、極端に低い成績がないのです。打率 は250、出塁率は300を切ったことがなく、常に安定しています。 一方で、栗山選手はシーズン終盤などの大事な試合では必ず結果を残す頼りがいのあるプレイヤーでもあります。
好不調の波が少なく、また、終盤に力を発揮するプレイヤー。
その背景にあるのは栗山選手のものの考え方にあります。
まず、シーズン終盤に力を発揮できる理由について、こう話します。
「どうしても、シーズン終盤の戦いは1試合が重くなってきますよね。一つ負ければ大きなものになる時もある。でも、一番大事なのは目の前の自分のプレーに集中する事なんです。結局ね、やることは同じなんですよ」
シンプルな言葉のようでもありますが、栗山選手の思考を掘り下げていくとものすごいところに行き着きます。
栗山選手はただ「いつも通りやればいい」と精神論だけを語っているのではありません。
個々がやるべきことを整理すると、その考えにたどり着くのだと言います。
栗山選手はこう説明を加えてくれました。
「いろいろ頭には浮かびますよ。ここで打ったらどうなるやろと。点が入る? 勝ち越しになる? 逆転になる? と、場面によって考えますよね。そして、自分がなんでこの試合に出してもらっているのか、とかも頭をよぎりますよ。でも、そんなことを意識して考えるくらいやったら、もっとやるべきことがあるんです。自分がどうすればいいスイングできるかを考えてプレーすることの方が大事なんですよ。いろいろ考えていく中で、当然、 配球について考えますし、相手投手の特徴を頭に入れてバッターボックスに向かいます。 バッターボックスに向かって歩きながら、いろんな考えを削っていくと、僕のやれること は、自分の打てる球を打ちに行く、結局、やることは同じというところに行きつくんです」
戦略的思考がないわけではない。相手投手の特徴と自分が得意なコース。また、その日、相手投手はどんなピッチングをしているのかを頭に入れなければいけません。どの球を打っていくかを当然、考えています。しかし、そのことと打席で何をすべきなのかは別問題なのです。走者がいるのか、いないのか。この試合に負ければどういうことになるのかは、打席に入る時には余分な情報ということなのです。対相手投手を見た時に、何をすべきかは限られてくると栗山選手は言いたいわけです。
栗山選手はこれまでのキャリアの中で多くの四球を選んでいます。特に、シーズン全試合出場を果たし始めた2010年あたりからは急増し、2013年には四球数が三振数を上回るということまでありました。
打線が強力であったことなど様々な要素が挙げられるものの、栗山選手の中で、ある思考を持ったことですべてが変わったのだそうです。
「正直ね、野球に四球なんているんかなって時々思うんですよ。もちろん、ビッグイニングを作るためには四球が絡まんとできないので必要ですけど、相手投手のコントロールがいいかどうかは関係なく四球は取ることができるんです。僕は打てるコースを打っているだけで、それを打ち損じた時に四球を選んでいることが多い。シーズン中は、自分の身体がいろんな状態になるわけじゃないですか。この時期はこの球が打てるけど、ある時期はそこは打てず、こっちの球なら打てる、とか。それを自分の中で意識してボールを選んでいっている。不調の中でできることを考える。それを繰り返している結果が四球の増加につながったんです」
一見、野球の技術だけを語っているように聞こえるかもしれません。しかし、栗山選手が繰り返し言っているのは、「自分は今、できる限りのことを整理して臨む」この一点なのです。
どのコース、どの球種でも、打てる状態なのであれば誰も苦労することはありません。
しかし、人間には好不調の波があり、できないことが出てくる場面にも遭遇します。その時に、好調の時と同じ心持ちで臨むのか、できることを整理して臨むのかで、結果的に、実践できることは変わってくるのではないでしょうか。戦力的なことはもちろんある。その中で、自分に今、何ができるのか。
それらを整理することで不調は超えられる。
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