指揮官は明豊前部長。「本物の強さ」を植え付け2度目の聖地へ━━楊志館(前編)
空前の「お茶漬けブーム」
赤峰監督の就任で、練習時間は長くなった。平日なら16時30分から21時まで。冬場の練習なら9時から17時まで。7人の3年生が引退した昨夏以降は、2年生が5人、1年生が8人という少数部隊となったため、ひとりあたりの「捕る、打つ」量は他校の倍以上に相当する。
また、火曜日、木曜日は専属トレーナーのもとに出向き、みっちりトレーニングを積んだ。さらに冬場の土日は昼食前に体重を計測し、その後の食事で2㎏増えるまでは午後の練習に参加できないという過酷な食トレにも取り組んできた。
「体重を増やしたいという思いも当然ありますが、何よりも“食べる”ということに対する意識を植え付けたかったのです。トレーニングと同じで、食べることによって限界を超えていく。『食べるということは、こういうことなんだよ』ということを指導したかったのです。その結果、食べやすく、水分と一緒に摂取できて体重も増えやすいという理由から、野球部に空前の“お茶漬けブーム”が起こりました(笑)」
練習をする。トレーニングをする。寝る。食べる。すべてを習慣づけることで、選手たちは徐々に高校野球を戦うためのフィジカルを手にしていったのだった。
下級生との争いに勝利した3年生たち
今春、楊志館には赤峰監督自身が足を運んでスカウトした26人の選手が新たに加入した。
「そもそも今までは誰を使うかではなく、出たとこ勝負の部分がありました。ただ、人数が増えたことによって、相手がどうとか、ウチの戦力バランスなどを考慮しながら、いろんな起用法が考えられるようになりました」
こうした中で、昨年以降もっとも苦しい思いをしてきたのは、現在の3年生たちだと赤峰監督は言う。在学中に2度の監督交代があり、赤峰監督の就任後は練習も長く、ハードになった。劇的に変化した環境の中でも、彼らはだれひとり脱落することなく赤峰監督を信じ、食らいついてきた。
「彼らは決して、本気で甲子園を目指して入ってきたわけではないのかもしれません。それなのに新しい監督がやってきて『勝たないといけない。勝たないと面白くないんだ』と言われ、いきなり明豊と同じぐらいの練習時間を課せられてしまいました。少人数なので、本当に長時間の練習は苦しかったと思います。そのうえ、今年の春には1年生が一気に26人も入ってきた。これだけの困難に、必死になって耐えてきた3年生たちなのです」
昨年の秋から、赤峰監督は「春になったら力のある新入生が20人以上も入ってくるぞ。今差をつけておかないと、春以降は学年なんていっさい関係ないから。俺は確率の高い選手を選ぶし、同じ力なら下の学年を使うから」と檄を飛ばし続けてきた。最上級生となった彼らは主将の武石浬を中心に奮起し、全員が実力で今夏のベンチ入りを勝ち取っている。

最後の夏に挑む3年生の5人。後列左から井原優色、武石浬、田北羽快、前列左から東歩夢、中村謙仁。
8強入りした2012年を最後に、夏の大会で2勝以上がない楊志館。まずは赤峰監督体制での夏初勝利を挙げることが、第一の目標となる。
国東に1-5で初戦敗退を喫した昨年夏は、赤峰監督自身も周囲も「赤峰楊志館、最初の夏」というものに、過度の期待をかけすぎていたのかもしれない。それがベンチ内に“絶対に勝たないといけない”という空気を充満させ、空回りしてしまった部分も少なくはなかっただろう。
「自分たちの実力を知った中での戦いではなかったなと思います。今年は夏を意識し過ぎずに、生徒がのびのびできる雰囲気を作ってあげたいですね」
赤峰監督自身が何度も経験し、味わってきた最高の雰囲気。あの甲子園の光景を、なんとしてでも後輩たちにも見せてやりたい。赤峰監督2年目の夏が始まる。
(後編に続く)
人数が増えたぶん、チーム内にはいろんな考え方が増えた━━楊志館(後編)