九ベ! ——九州ベースボール——

”活気のなさ”で勝ち獲った春の甲子園━━あと一歩の壁①熊本国府・山田祐揮監督(前編)

2024年の頂点を賭けた球児たちの熱戦が、連日のように繰り広げられている甲子園。
その一方で、甲子園出場に王手をかけながら、あと一歩で切符を逃すという「もっとも悔しい負け」を経験した各県の準優勝校は、すでに来季に向けたチームづくりを本格化させている。
そんな「偉大なる敗者」となった準優勝校の監督にフォーカスし、夏の振り返りと今後のチーム強化について直撃するインタビュー企画。
第1回目は、学校初の春夏連続出場まであと1勝に迫りながら涙を飲んだ、熊本国府の山田祐揮監督にスポットを当てた。

「普段どおり」を崩さない

━━前チームは昨年秋に九州大会で初優勝し、明治神宮大会に出場しました。そして、春のセンバツで学校史上初の甲子園出場も達成。そうやって、学校の歴史をことごとく塗り替えていきましたが、どういうキャラクターの代だったのでしょうか?
「いつでもどこでも、自分たちの“いつもどおり”を貫いていける子たちでした。秋の九州大会を勝ち上がっていく段階でもそうだったし、この夏の決勝戦前も“ここで勝てば甲子園だ!”という気負いはなく、いつもどおりに準備をして、いつもどおり試合に臨みました」

━━当初からそういう淡々としたチームだったのですか?
「でも、正直なところ“これじゃ勝てない”と思っていました。熱量が感じられなかったので。秋の熊本大会優勝から九州大会までの2週間も、彼らのテンションは何も変わりませんでした。“大丈夫か、こんな練習で”と思いましたよ。熊本県から2校しか出ることができない九州大会、しかも九州4強に入ればセンバツ出場も確実になる。そこを意気に感じてやってくれるのかなと思っていたら、それもまったく感じられませんでしたからね。みんなを集めて『熊本代表として頑張ろうという気持ちはないのか』と尻を叩こうと思ったこともありましたが、その時は私の方が耐えました」

━━そこで彼らを信じようと思った理由は何だったのですか?
「私はかつての済々黌監督で、大竹耕太郎投手(阪神)を育てたことでも知られる池田満頼さんから、以前にこんな話をしていただいたことがありました。『山田君、普段どおりできるかなんだよ。大事な試合だからといって、監督が普段と違うことを言ったり、やったりしては選手に不安がられるだけだ。普段やっていることが本来の力。それしか出ないんだから』。その言葉が僕の中にすごく残っていたのです。だから、この子たちの普段どおりを崩すことなく、彼らに賭けてみようと思いました。正直、九州で優勝した時点では、まだ不安もありました。ただ、大会から帰ってきて自分たちのグラウンドで練習する彼らの姿を見た時に、もう腹を括りましたね。ウォーミングアップもキャッチボールも、ノックも、九州大会に行く前のテンションで行なっているんです。この子たちにとっては、これがベストなんだ。自分自身にそう言い聞かせましたね」

━━そんな彼らの“穏やかさ”は、最後の最後まで変わることがなかったということですね。
「神宮に行った時も、センバツに行った時も変わりませんでした。普段とは違う練習環境や宿舎での生活の中でも、まったく普段と一緒でしたからね。センバツに出場した時も、普通だったらもっと浮かれてもいいと思うのですが、それもあまり感じられませんでした。よく言えば、不動心。そうじゃない言い方をすれば、活気がない。こうしたスタイルが正しいのかどうかも、僕にはわかりません。ただ、少なくとも夏に引退した3年生たちが、そのスタイルを貫いて熊本国府の甲子園初出場を勝ち獲ったことだけは事実です」

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