”活気のなさ”で勝ち獲った春の甲子園━━あと一歩の壁①熊本国府・山田祐揮監督(前編)
”いなして勝ってきたチーム”が、がっぷり四つに組んでしまった
━━夏は第1シードから順当に勝ち進み決勝進出。相手は奇しくも山田監督の母校・熊本工でした。試合は1-4の6回に2点を失い、最終的には2-6で熊本工に軍配が上がりました。エースの坂井理人投手が6失点という苦しいマウンドとなってしまいましたが、勝者と敗者を分けた最大の要因は何だったと考えますか?
「気迫でしょうね。アップの段階から“絶対にお前たちを倒してやる”という気迫が凄く伝わってきました。だから、試合の中でも集中力が凄かったです。今年の熊工は、選手の能力が県内ではナンバーワンと言われてきました。僕もそう思っていました。しかし、秋も春もなかなか思うように勝てず、一方の熊本国府は九州で優勝し神宮にも行き、甲子園初出場です。そういう意味では、この1年間でもっとも悔しい思いで苦杯を舐め続けてきたのが熊工の選手たちなんです。そしてその間、もっとも美味しい思いをしてきたのが熊本国府でした。私も熊工出身ですから、熊工の選手たちの“絶対に国府だけには負けられない”という気持ちは痛いほど分かります」
━━カラーがまったく異なるチーム同士の対決だったので、見ている方は最高に面白かったです。
「この対戦に関してはメラメラに燃え立つ炎と、ただひたすら静かな水の対戦といったところでしょうか。熊工は本当に死に物狂いでした。逆に熊本国府は昨秋の九州大会における神村学園戦のように、そういう前がかりなチームを上手に“いなしながら”勝ってきたチーム。ところが、夏の決勝に関しては、ついがっぷり四つに受けてしまいましたね。もともと力があると言われた熊工が“絶対に負けられない”という気迫を前面に押し出しているのに、ウチのようなチームが正面から受けてしまっては分が悪いのは目に見えています。初回にいきなり相手先頭の松永昂大君にセンターオーバーの三塁打を打たれてしまいました。それまで大会を通じて2安打しか打っていないバッターの長打ですから、相手は勢いづいて当然です。あれで球場の雰囲気も試合の流れも、一気に相手のものになってしまいました」
━━決勝でも両輪としてこのチームを支えてきた坂井投手と、左のエース・植田凰暉投手への継投が見られました。結果的には6点を失ってからのリレーと、後手になった印象もあります。
「この大会では植田の状態が万全ではありませんでした。おそらく決勝の坂井は“俺が完投するぐらいの気持ちで行かなきゃ”という気持ちがあったのだと思います。それが序盤にボールが浮いてしまう要因となったのかもしれません。植田が万全なら、坂井で5回、植田で4回というリレーになったはずです。2-4のまま後半勝負に持ち込むことができていれば勝機もあったでしょうが、6回も坂井を続投させて決定的な2点を奪われてしまいました。今までの植田であれば、本来のプランどおりに6回の頭から植田です。ところが、僕にはそれができませんでした。結局、7回からマウンドに送り出した植田は無失点。ふたりには申し訳ない結果となってしまいました」
つづく