「正直、親心がくすぐられたのは事実です」━━あと一歩の壁③富島・濵田登監督(前編)
こいつには絶対に負けたくない!
━━決勝戦の相手は濵田監督の母校でもある宮崎商でした。じつは直前の県選手権でも対戦していて、延長10回2-3サヨナラ負けを喫しています。今年に関しては延岡学園も力はありましたが、やはり直前の大会でも負けている相手、しかも春に優勝しているということで、宮崎商のことはずいぶん意識されていたのではないですか?
「大会前から“今年は宮商、延学だろうな”と思っていましたね。宮商とは3月17日に富島のグラウンドで中津東(大分)を交えて練習試合をしましたが、中津東戦で3本のホームランを打っていますからね。振りが全然違っていて、本当に今年の宮商は凄いなと思ったし“これは勝てんわ”と頭を抱えましたよ。ただ、5月の県選手権で当たった時には、その春先に感じた差が縮まったとは思いませんでしたが、春先ほどは振れていないなと感じました。それは疲れなのか何なのかは分かりませんが、思っていた以上にバッティングの状態が良くなかったのです。夏の大会の序盤を見ていても、まだまだ以前の状態には戻っていなかったですね。でも、宮商は春に優勝。九州大会に行って、ゴールデンウイークは四国に行って、帰ってきてからは健大高崎と招待試合。県選手権予選を戦って、本戦を戦って3位になった。そして夏の大会ですから、疲れが取れていなかったのは間違いないでしょう」
━━決勝を戦う宮崎商の監督は、濵田監督にとっては直接の教え子にあたる橋口光朗監督です。教え子と夏の決勝を戦う心境とは、実際のところどういうものなのですか?
「たしか今年にかぎって言えば、県立同士の決勝戦は全国で3つしかなかったんですよね。秋田の金足農と秋田商。佐賀の有田工と鳥栖工。そして宮崎の宮崎商と富島。その中でも、師弟対決は宮崎だけですから、そんな試合を甲子園を決める最後の試合でできるというのは、やはり幸せなことですよ。試合前はこんなに恵まれたことはない、本当にありがたいことだと思っていたし、きっと幸せなひと時になるのではないかなと想像していました。でも、試合前取材の後に顔を合わせた瞬間“こいつには絶対に負けたくない!”と思いましたけどね(笑) 」
━━今回は残念ながら3-4で富島が負けてしまいましたが、やはり他のチームに負けるのと教え子に負けるのとでは、感じるものは違いますか?
「当然負ければ悔しいです。ただ、ぶっちゃけ言うと……、他のチームに負けた時とは違いますよね。とくに今回に関しては、大会前から宮商のみんなが『3年前の忘れ物を取りに帰るために甲子園を目指している』と言っていましたけど、そこにも感じるものはありました。3年前の夏は県で優勝して甲子園まで行きながら、抽選会後に部内でコロナが流行。1試合もできずに出場を辞退するという無念さを味わっていますからね。それはもちろん監督だけのせいではないんですけど、やはり我々の想像を絶するような思いを持って臨んだ大会だったと思うんですよ。だから僕の中では宮商が甲子園に行ったことによって、橋口光朗の心に引っかかっていたものが取れて良かったなという、そういう親心みたいなものがくすぐられたのは事実です。“決勝はウチが勝ちかたかったけど、良かったよな。お前も苦しんだもんな”みたいな、なんとも言えない気持ちになりました」
つづく