覆面禁止法の愚とその効果—10月前半の香港[上]-(松沢呉一)
覆面禁止法で香港政府が狙ったこと
先週は風邪をひいてしまって、香港の中継はあまり見てなかったのですが、ところどころ見た範囲では、それまでに比べて落ち着いた感もありました。
しかし、10月13日は日曜日とあって、今まで同様、あるいは今まで以上に荒れてました。
翌14日は米国議会に「香港人権・民主主義法案」の可決を求める集会があり、これはさすがに内政干渉になるだろうと思うのですが、それはともあれ、主催者発表で13万人が集まりました。警察は最高時で25,200人と発表。トータルの数字とある瞬間の数字で違いが出るのは当然として、中継を見ていても、写真を見ても、瞬間の数字にせよ警察の数字は少なすぎましょう。「ちゃんと数えていますアピール」かとも思いますが、200人なんて数字が出てくるのはかえって怪しい。
2019年10月14日付「立場新聞」より
100万人規模の集会やデモはそうそうないにしても、10万人があっさり集まるのが香港。
いつものように後半は荒れて、この日だけで201人逮捕されたとのこと。国慶節の10月1日に180人逮捕されていますが、201人は反送中運動の1日の逮捕者としては最大ではなかろうか。反送中運動の逮捕者はすでに2,700人くらいになっているはずです。半月ほどで1,000人以上増えてますから、いかにここに来て逮捕が相次いでいるのかわかりましょう。
これはプロテスターたちの行動が、店舗を破壊し、線路に障害物を置くなど激化していることがひとつ。爆発物が使用されたとの情報もあります。7月に爆発物の工場が摘発されたと報じられてますが、使用されたのは今回が初。プロテスターたちの行動は行き過ぎが目立っていて、誤爆も増えています
機動隊はこれを鎮圧すべく、5日から施行された覆面禁止法をフルに活用しているようです。こんな法律、実効性がないだろうと思っていたのですが、警察にとっては使い途があったみたい。
中継を見ての印象しかないですが、確実に機動隊はこの法を使ってます。覆面禁止法は、覆面をしてデモに出てはいけないという内容の法律なのですが、機動隊はデモではない場面でも、マスクをしている人を誰何し、逃げたり、抵抗したら逮捕。持ちもの検査をしてデモに出ている証拠が出てくると逮捕しています。
たとえばこの映像。
この前に何があったのかの映像がないため、はっきりしたことはわからないですが、マスクをはずせと言われて拒否して逃げたとのことです。走り方を見ても、本気で逃げようとするようには見えません。無理矢理押さえつければ抵抗するのは当然でしょう。これで日本で言う公務執行妨害の容疑になるのだろうと思われます。香港ではうかうか風邪もひけない。
勇武派のデモは無許可デモであって、それだけで逮捕は可能なはずですが、刑が軽い。対して覆面禁止法違反は懲役一年以下なので、片っ端から実刑にもっていくための法律であるとともに、このようにデモ以外の場面にも適用することを予め狙っていたのかと今になってわかりました。
ここまであからさまにやることは珍しいとしても、法律はこういうものです。運用する側の一存でどうにでもできてしまいます。
機動隊の戦術変更
もうひとつ逮捕者が増えた理由になってそうなのは、機動隊の戦術変更です。
今まではプロテスターたちがバリケードを作り、そこに火をつけ、投石し、時に火炎瓶を投げ、対する機動隊は催涙弾、ゴム弾を撃ちながら接近していって攻め込む戦術でしたが、ここに来て機動隊は対峙する局面になる前に、盾を持たずに、持つとしても小さい盾だけで全力で疾走して逃げ遅れたのを捕まえています。
今までもこういうシーンは見られましたが、それをスタートさせるタイミングが早い。これまではバリケードや放火、火炎瓶によって暴動罪の容疑で逮捕していたのでしょうが、これもマスクだけで実刑にできるようになったということなのだろうと私は見ています。
さすがに訓練している機動隊員は足が速い。中でも足の速い機動隊員を選んでこの担当にしているのでしょう。これで女子が何人も捕まってました。もともと女子の参加率が高いということもあるのですが、男に比べると逃げ足が遅い。取材陣も追うのが大変です。
しかし、この方法は、追う相手が分散した時に、機動隊員の数が少なくなって、逆襲されることがあります。たぶんそういう状況だったんじゃないかと思うのですが、下の動画のキックは鮮やか。
CAM4だったらチップが集まるところです。
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