松沢呉一のビバノン・ライフ

赤痢と腸チフスとペストとコレラの現在—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[ボツ編]-(松沢呉一)

コロナ禍についてのボツ原稿は大量にあるのですが、時間が経って内容が腐っているので、もう復活させる意味はなさそう。タイムリーなものは腐ります。でも、ひとつだけ復活させることにしました。2020年2月に書いたものです。図版もその時のままです。

江戸末期から明治半ばまでの日本では虎列刺(コレラ)で年間10万人が死んでいた—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[余談編 1]」」の最後に「現状のコレラについてはまた別枠で」と書いてますが、完成していたのに、そのまま新型コロナの話になだれ混んだため、出すタイミングを逸したみたいです。

この頃から、ただ感染を抑え込めればいいってもんではないという意識をしっかり持っていた私はたいしたもんだなと。

 

 

赤痢とチフス

 

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赤痢(バンドじゃなくて、感染症の方)が出てきたので、ついでに赤痢の説明。

今ではコレラよりもランク落ちする感があって、インドや東南アジアで下痢をするのは赤痢だったりもするのですが、そうは大事にならずに治ってしまいます。空港で深刻すると隔離されてしまうため、すっとぼける人たちもいます。すっとぼけたところで、今の日本でそこから感染が拡大することはまずないのですが、知人は申告して赤痢だったため、隔離されました。たしか10日以上の隔離だったと思います。

しかし、ベルツ著『内科病論』によると、この頃は平均死亡率が1割と出ています。南方では3割。

これは戦後まで続き、国立感染症研究所によると、「戦後しばらくは(感染者が)10万人を超え、2万人近くもの死者をみた」とのこと。腸チフスもそうですが、栄養状態が悪いので、戦後間もない時期の死亡率は高い。大正から昭和初期に活躍したエロ出版の巨人、梅原北明も戦後腸チフスで亡くなってます。

コレラと言い、腸チフスと言い、赤痢と言い、昔はいかに感染症(伝染病)で人がバタバタと死んでいたのかって話です。

しかし、伝染病のホームラン王はペストです。14世紀にヨーロッパで大流行した際は、治療しないと死亡率100パーセント、治療しても30パーセントから60パーセントで、死亡者1億人。今は抗生物質が効きますから死亡率は落ちていて、5パーセントくらい。治療しない場合でも30パーセント程度ということなので、菌が弱くなっているのかも。それでも、毎年、世界中で数百人から数千人亡くなってます。

日本では流行したことがないのかと思っていたら、ヨーロッパでの大流行期には上陸していないながら、明治29年(1896年)以降、小規模かつ散発的には感染者が出ています。最大の流行は、1905年から1910年に、大阪で958名の患者が発生。

Amazonで売られているペスト医のマスク。ペストは黒死病というネーミングにせよ、ペスト医にせよ、カッコいいよなあ。それに引き換え、赤痢は血の混じった下痢。どうして赤痢は日本語名、しかも漢字が残ったんだろう(英名はdysentery、独名はdysenterie)。

 

 

コレラの現在とその原因

 

vivanon_sentenceWHOのデータによると、中国は1993年から1995年にかけて毎年万単位のコレラ感染者を出していて、国内での流行があった模様ですが、その後は減少し、ここ数年は二桁です。これらも、中国と関係の深いアフリカ大陸で感染して持ち帰ったのかもしれない。

今も世界には6億6千万人が感染リスクのある環境にいるとWHOは言っており、これは「改良された飲料水のない人々」です。上下水道の整備がなされていないってことです。コレラは水不足が遠因です。足りないから、汚れた水を使用する。

 

 

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