アムネスティとゼレンスキーの対立を整理する—私はアムネスティの姿勢を支持-(松沢呉一)
アムネスティの報告にゼレンスキー大統領が猛反発
アムネスティ・インターナショナルは、8月4日、「Ukrainian fighting tactics endanger civilians」(ウクライナの戦闘戦術は民間人を危険に晒す)と題した報告書を発表。アムネスティのサイトに出ているのはそのダイジェストだと思いますが、4月から7月にかけて、ハルキウ、ドンバス、ムィコラーイウの三ヶ所で調査を行って、19の地点でウクライナ軍は住宅地域に軍事拠点を置いていたことを確認。中には病院や学校内に置いていた例もありました。
これらには代替用地があったことも確認しています。つまり、周りに人が住んでいない森よりも、住宅地が意図的に選択されたというのがアムネスティの見積もりです。
ロシア軍はしばしば病院や学校の攻撃について、ウクライナ軍の軍事拠点になっていた旨を説明していますが、その一部は事実だったわけです(注釈がついていて、ロシアの主張のすべては確認できておらず。ロシアの主張は多数の噓から成り立ってましょう)。
この戦略の結果、民間人が巻き込まれて死傷したケースも確認されており、ウクライナ軍は民間人を盾にしているとアムネスティは非難しています。
翌5日、これに対してゼレンスキー大統領は、ロシアの侵略行為を免罪し、加害者の責任を被害者に転嫁するものだと強く反発するメッセージを公開。
先に結論を言うと、私はアムネスティ支持。
事実ではないならそう言えばいいだけ
ゼレンスキーは、はっきりとアムネスティが指摘したことが事実であると認めたわけではないですが、認めたに等しいでしょう。もしそれが事実ではないというなら、そう反論すればいいだけです。
その上でゼレンスキーが言っているのは「敵を利する論」です。アムネスティはもっとひどいことをいっぱいやっているロシアを利するのだと。「敵を利する論」の間違いはこれまでにもさんざん書いてきましたが、「敵を利するようなことをやっている味方を免罪し、事実を報じた人々に責任を転嫁させる」という点にあります。
この論は無限に自軍の不当、不法な行為を肯定し、隠蔽します。このような主張をする集団は必ず腐敗します。ロシアこそはこれをやっていましょう。戦争と呼ぶだけで犯罪というのがその典型であり、プーチン政権に都合の悪いことは「外国のエージェント」認定。敵を利するのだと。
とくにウクライナ軍の場合は、ロシア軍が民間人を殺戮する名目をも与えた可能性があります。民間人を巻き込まないことを心がけるような軍隊には通用するかもしれないですが、相手はロシアですから、まるで通用せず、平然とミサイルを撃ちこんできます。
命中精度の低い武器しかないロシア軍は、軍事施設を狙っても周辺に着弾して、民間人を殺します。最初から民間施設を攻撃しても、「軍事施設があった」と言えばいい。現にウクライナ軍はそういうことをしているんですから。
※アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長のツイート。とくにゼレンスキーの演説以降でしょうが、インターネットで相当に叩かれているようです。
アムネスティがロシアを批判していなければゼレンスキーの主張は通るかもしれないけれど
それでも「ロシアはもっとひどいことをやっているのに」というゼレンスキーの言い分は一定の説得力を持ってしまいそうです。しかし、これを肯定する道筋は見いだせないです。
アムネスティはもっとひどいことをやっているロシアに対しては、もっと強く批判を続けています。8月4日付のツイートを現在トップに固定している通り。
ウクライナに対する侵略戦争については、さんざん批判してきましたよと。
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