松沢呉一のビバノン・ライフ

モンゴルに取材した中京テレビのドキュメンタリーを推奨—国外脱出したロシア人たちの苦渋[1]-(松沢呉一)

 

「プーチンは“少数民族”を消そうとしている」

 

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ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2023の決勝が始まってます。YouTubeの中継だけで100万人以上観ています。

イギリス、ドイツ、北欧など、ヨーロッパの北となると全然違いますが、地中海側はジプシー音楽が底流に流れていることがあります。ミュージシャン自身にジプシーの血が流れているとは限らないですが、迫害され続け、今も迫害されている人々の音楽が脈々と伝わっている。

そんなことを考えながら、本日分をまとめておきます。

昨日観た中京テレビのドキュメンタリー「国民と国家」はムチャクチャいい内容でした。

 

 

ウクライナがロシアを圧倒するシナリオ以外でこの戦争が終わることがあるとしたら、少数民族の蜂起であると見ている私としては、少数民族にスポットを当てたこのドキュメンタリーに目が釘付け。スポットを当てたのは、「ビバノン」にもたびたび出てきたアジア系のブリヤート人です。

この視点を得て、取材を進めることができたのは、ディレクター自身がブリヤート人(モンゴル人)だからでしょう。

また、このドキュメンタリーでは、国を脱出したロシア人(ブリヤート人)にスポットを当てています番組冒頭で、名古屋に避難してきたウクライナ人を取り上げているように、国を出たウクライナ人のことは注目されますが、国を出たロシア人に注目することは少ない。そこは私も気になっているところです。

国を出たウクライナ人とロシア人との比較のため、また、まずは日本人にも認識されている存在を導入にするためでしょうが、日本に来ているウクライナ人のことはいらんかったんじゃなかろうか。中身が豊富すぎて、どこに焦点があるのかわかりにくいのがこのドキュメンタリーの難点かな。

国民と国家」というタイトルもわかりにくく、このサムネイルにはそのタイトルを入れておらず、「プーチンは“少数民族”を消そうとしている」と出ていて、こっちの方が内容を端的に説明しています。

 

 

ブリヤート人にとってもモンゴルは安住の地ではない

 

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国外に出たロシア人を追うドキュメンタリーは、欧米メディアもジョージア、トルコが中心で、同じくロシアからビザなしで行けるアゼルバイジャンやモンゴルまで取材するケースは少ない。DWやラジオ・フリーヨーロッパが取材していますが、日本のテレビでモンゴルまで追ったのはこれが初かもしれない。

短いですが、参考までにラジオ・フリー・ヨーロッパの映像。

 

 

やはりブリヤート人が多いようです。

彼らはまだ恵まれていて、学校に入って就学ビザをとれれば数年の猶予ができますし、仕事を見いだせれば就業ビザに切り替えられますが、ほとんどの人が得られるビザは観光ビザですから、数ヶ月で切れます。延長できることもありますが、それにしても数ヶ月。多くの場合、観光ビザでは働けないですから、いずれ金が尽きます。

ブリヤート人が多く住むエリアからモンゴルはすぐですから、その意味でも行きやすいのに、戦争以降、数千人しか移住していないのは、ブリヤートは経済的な余裕がない人が多く、学校に入る金も何ヶ月も遊んでいられる金がないからでしょう。貧乏人は戦争に行って最前線に送られて死ぬか負傷するか捕虜になるしかない。

 

 

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