「私たちは買われた」から「私は変われた」へ—上野千鶴子の粗雑な論をありがたがるのはもうやめれ[5](最終回)-(松沢呉一)
「時代の変化から取り残されたフェミニズム—上野千鶴子の粗雑な論をありがたがるのはもうやめれ[4]」の続きです。
フェミニズム礼賛の名曲「公金チューチューギガドレイン」
今回で終わり。
最後に「上野千鶴子氏に聞いた」に対する私のまとめを出しておきます。
くどくど書くより、この曲に代弁してもらえば事足ります。
半年前にさーゆーチャンネルで発表されたこの曲に衝撃を受け、いつか取り上げようと思っていたのですが、やっとその機会が到来しました。
ニクアナ・グランデ(ピンクのジャケットを着たツイフェミ)が最初は定番の言葉を歌ってますが、「わかってる」以降、魂の叫びを始めます。
「私たちは買われたんじゃなくて、変われなかったんだ」という告白に震えました。そして、「そうだ、領収書を公開しよう」と解決に向かう強い意志とその先にある「私たちは変われた」の確信に泣きました。ホントにちょっと涙が出たわ。「歳をとると涙もろくなる」傾向がここまで進行して、こんなんで泣いた自分にまた泣いた。
Colaboがきっかけになっているのでわかりにくいし、その点では内容が古くなってますが、あますところなく、フェミニズムを目指したはずの人が糞化する仕組みとそこから脱する方法を描きだした名曲です。
主体性を剥ぎとって、「女」という集団を「被害者」「犠牲者」「弱者」という「意志なき従属物」として、男社会にすべて押しつける依存状態から脱するために、「私たちは買われた」という受動による他責から、責任を自ら引き受けて「私たちは売った」に転じることで主体性を奪還し、「私たちは変わる」と宣言。
この決断の先には茨の道が待ってます。「女は被害者にしかなれない」と認識する人々からバッシングされます。それでも決意するニクアナ・グランデ。ニクアナ・グランデはツイフェミですから、トンチンカンなことをよく言ってますが、この時の彼女は凛々しい。
「私たちは買われた」を踏まえているので、主語は「私たち」になっているのですが、魂の叫びの中で「私だって変わりたかった」と、主語が「私」になっている箇所があります。フェミニズムが本来内包してきた個人主義に立ち返り、「女」「私たち」という集団の規定から抜けて、「私」が考え、「私」が決意し、「私」の足で立つことを示唆しているのです。
ツイフェミからフェミニズムへと進むことを訴えかけるフェミニズム礼賛ソングです。素晴らしいな。さーゆーさんはよくわかってらっしゃいます。
ネタを一新したニューヴァージョンが欲しいところです。
終わり。
求めるべきは機会の平等
というわけにもいかないので、私の言葉でも書いておくとします。ニクアナ・グランデと言っていることは一緒ですけどね。
今までも何度か書いてきましたが、男女格差を解消するに当たり、なぜ糞理論では男側の言動を抑制し、消し去ることでしか実現できないと考えるのでしょうか。
昔はよく「男女同権」という言葉が使われて、フェミニストという言葉が一般化するまでは「女権論者」という言葉が使われてました。男女同権が目標としたのは「選択の男女平等」です。男ができていることを女もできるようにすればいい。その結果、数字的な男女の差が生じたところで、それは選択の結果ですから、二次的な問題です。その表層的な差を力技で等しくすることには意味がなく、むしろ軋みを生みます。
選挙結果における数字的平等を達成するクオータ制がその筆頭。そんなことより政治家になりたい女が男と同様に政治家になろうと決断できるように「選択の平等」を求めるべきであり、その結果、政治家の男女差が等しくならないとしてもさしたる問題ではありません。
「日本の女性議員率」シリーズで、私はいくつかの改善策を出しました。政治家になるためにもっとも有利な学問は政治・法律・経済です。しかし、それらを学べる女子大はほとんどありません。今も家政学や文学、語学が強い。それにも意味はあるとは言え、「政治家になる」という一点で言えば弱い。こんなことをしているから女子大は学生が集まらなくなっているわけで、ここから変えていく必要があります。しかし、こういう大学でメシを食っているフェミニスト教員たちもここは放置のようです。
「なんでだよ」と当時思っていたのですが、自分の責任を直視することはしたくないのです。すべて男社会にせいにしたい。政治家の男女差が広がらないのは、数字を見れば歴然としているように、政治家になろうとする女が少ないからですが、各政党に性差別があるからであるようなことを言います。原因さえ正しくとらえようとしない。
「男が悪いのだから、男が変わらなければならない」という他力、他責、他罰が先行する。被害者ヅラして文句だけ言っていればいい。これがツイフェミ。
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