深夜3時に声を掛けてきた中国人女子—彼女の目的はなんだったか-(松沢呉一)
2ヶ月ほど前に書いたものです。その後腰痛は鎮まってます。
腰痛の私とジャージの中国女
2日前に重いものを運んだ際に腰が痛み出しました。翌日はさほどでもなく、この日もバイト中は気にならなかったのですが、バイトが終わって帰路につく途中で腰が重くなりました。
ギックリ腰のように、立つこともままならないような激痛ではなく、どんよりした痛みです。以前は立ちっぱなしだと腰が痛くなることが多かったのですが、最近は歩いている時に痛み出すことがあります。椎間板ヘルニアが進行しているのかな。
痛み止めを飲めばいいのですが、携帯しているロキソニンは一昨日飲んでしまい、補充するのを忘れてました。
繰り返し立ち止まって背伸びをしていたのですが、遂には我慢できなくなって、コンビニで飲み物を買い、交差点の脇にある植え込みのコンクリートに腰を下ろしました。
走り抜ける車に目をやりながらも見てはいない、ボーッとした時間を過ごしていたら、「今何時ですか」と女の声が耳に入ってきました。
見ると、上下のジャージを着た20歳くらいの女子です。
「ちょっと待ってね」
私はリュックからスマホを取り出しました。
「3時33分」
今日が3月3日だったらもっとよかったのにと思いながらそう教えたら、彼女は横に立って、スマホを覗き込みました。聞こえなかったのかな。
「3時33分だよ」
私はもう一度そう教えました。
彼女は顔を上げながらこう聞いてきました。
「今いいですか」
なんだろう、宗教の勧誘か。
✳︎日本整形外科学会のサイトより 老化が重要な原因のひとつなので、根本治療は難しい。リハビリに行くのは面倒なので、当面痛み止めで乗り越えます。
私はどこから来たでしょう
「いいよ」と私が返事するのとほとんど同時に彼女は隣に腰掛けて、質問を始めます。
「何をしていた?」
タメ口です。
「何も。家に帰るところ」
そう答えながら、彼女は日本人じゃなさそうだと気づきました。見た目も話し方も。
「君は?」
「遊んでた」
「どこの国から来たの?」
「国言う」
一瞬意味がわからなかったのですが、「私はどこの国から来たでしょう」という例の質問かと気づきました。
「中国」
あっさり当てられたのがつまらなかったのか、彼女は「当たり」も「ハズレ」も言いません。
「中国は大変だね」
話題を経済破綻や広東省の洪水につなげるつもりだったのですが、その目論見はかわされました。
「日本も大変」
「どこが?」
「仕事が大変」
「何の仕事をしてるの?」
「食べ物」
「仕事は何時から何時?」
「朝7時から夜5時」
午後5時は「夜」とは言わないですが、中国では言うんだっけな。飲食店にしては朝が早くて、終わりも早い。弁当屋か、仕出し屋か、スーパーの惣菜担当か。
✳︎こんな感じのジャージでした。もしかすっと本当にこれかも。Amazonで4,680円。
日本は大変
私が働いている時間を指折り数え始めたら、彼女も一緒に指を折ってます。
「10時間か」
「10時間。そのあと飲みに行くのが楽しみ」
「今日も飲みに行ってたのか」
「そうだよ。給料が出たから」
酔っているようには見えなかったですが、日本語ができないだけでなく、酔って言葉が出てこないようです。
「お金いっぱい払ったから、もう残ってない」
「家賃とか電気代とか」
「そう」
「一人で住んでるの?」
タコ部屋みたいなところかとも思いまして。
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