松沢呉一のビバノン・ライフ

観光客の料金を高くする二重価格が受け入れられる条件—二重価格は日本では難しい-(松沢呉一)

 

世界的に見て、二重価格は決して「一般的」ではない

 

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ちょっと前から、オーバーツーリズム対策として、二重価格が浮上してました。観光客の料金を高く設定する。これを実行する店はないだろうと思ってましたが、そうでもないみたい。

 

 

まず事実の確認。アナウンサーは「(二重価格は)海外では一般的」と言ってますが、これは誤解を招きます。もっぱら発展途上国で見られるものです。

以下、その例。

 

restless beans」より

 

発展途上国の遺跡や景勝地。施設への入場料ですが、これらに付随する店舗でも、二重価格になっていることはあるようです。

ここに出ているのは、先進国と経済格差がある国々です。国という単位ではなく、料金を安くするのは「地元民」となっていることにも留意のこと。観光客は場合によっては地元民の年収くらいの予算をかけてその地にやってきて、端金を出して入場するのに対して、地元民は観光客に迷惑をかけられるだけで、金がなくて中に入れないのは理不尽。先祖代々地元民が守り続けてきたかもしれないのに。

先進国でも、観光客はビーチの入場料が必要なのに対して、地元民は無料の場合がありますし、米国のディズニーランドも地元民は割引になるそうです。実質、観光客から多く取るのと同じように思いますが、地元民に限定していると、何かしらの負担をしている人たちに対するケアの意味合いが強まります。地元の範囲は広くても自治体単位であり、地元民に対してパスを配布すればいいだけなので、地元民であることの証明は簡単です。

日本でも、地元の常連さんは安くしたり、ツケ払いができるようになっている飲食店があります。客がやっている店で買い物をする時は逆に便宜を図ってもらうなど、持ちつ持たれつの関係であって、これは個別に判断される点で差別ではないですが、観光地の地元民には観光収益で富豪になったのがいるかもしれず、観光客でも金のないバックパッカーもいましょう。それをざっくり「地元民/それ以外」で区分すると、差別に近づきます。「一切の差別はあってはならない」と考える人にとってはあってはならないことです。

しかし、合理的理由があればその合理的理由を明示して差をつけることは「許容されるべき差別」だと私は考えます(この辺については「東中野「西太后」の「差別」貼り紙を検討する」参照のこと)。この場合利用者一人一人に納税証明を出させることは不可能ですから、「やむを得ない差別」です。

 

 

二重価格は慎重に

 

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では、「日本で二重価格にすることは許容されるのか」を上の動画に出てくる渋谷の海鮮食べ放題の店「玉手箱」を例にして考えてみましょう。

そもそも渋谷駅周辺の地元民は松濤にせよ、桜ヶ丘にせよ、もっぱら富裕層ですから、経済格差を理由に優遇する意味がありません。

日本全体に拡大すれば、円安で怖くて海外に行くこともできなくなっていて、観光客が万を超える和牛や寿司に「安い」と言いながら舌鼓を打つのを眺めてよだれを垂らして羨ましがるしかない現実は確かにありますから、二重価格にしてもよさそうですが、落ちぶれても日本は二重価格を許容されるほど貧しくはない。

さほど裕福ではない地域から来ている観光客もいます。いつまた旅行に出られるかもわからないですから、貯めた金を一気に放出して旅行中は贅沢しても、国に帰れば慎ましやかな生活をするのもいましょうから、彼らには賛同されにくいだろうと思います。

日本人と日本在住者は1,000円割引くという形になっていますが、それに対して、外国人の観光客は高いことには違いありませんし、「地元民」と「日本人」だと印象が違ってきます。これは「許されない差別」と感じる外国人が多いだろうと想像します。

そう感じてくれれば日本に来ることを躊躇する人が減って願ったり叶ったりですが、いつまでも観光客が来てくれるわけではなく、悪いイメージをずっと引きずるのは得策ではないでしょう。

✳︎「食べログ」より

 

 

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