なぜ今になって中国政府は他国で起きた事件を裁くことにしたのか—スウェーデンでも中国でもタイでも話題沸騰の林友逮捕[後編]-(松沢呉一)
「21年前のヴェロニカ・リン殺害事件と11年前のリン・リン殺人事件—スウェーデンでも中国でもタイでも話題沸騰の林友逮捕[前編]」の続きです。
中国で林友が逮捕された
2022年、スウェーデンの公共放送であるスウェーデン・テレビがヴェロニカ・リン殺害事件のドキュメンタリーを放送し、忘れられそうになっていたこの事件が再びスウェーデン社会で話題になりました。
この番組のアーカイブはスウェーデン国内のみで公開されており、以下はトレーラーです。
そして、今年になって、中国の警察から、スウェーデンの警察に、捜査情報の提供を依頼する連絡があります。逮捕されたのは3月14日、深圳でのことでした。スウェーデンに連絡があったのはおそらく8月、情報が表面化したのは9月のことです。
中国で林友の裁判が始まるというので、スウェーデンで期待が高まります。ところが、死刑があり得る事件に対する協力はできないというので、「死刑にしない」という確約を得てから情報提供すべしなんて意見が出ています。
そうすると、死刑を廃止した国でなされた重大な犯罪を中国が裁こうとしても協力が得られないということになります。中国人が人を殺す場合は、スウェーデンのような国でやって、中国に逃げればいい。実際、今回のように中国が裁判を実施することは稀ですから、逃げおおせる可能性は高いでしょう。それによって、中国人による犯罪が増えても死刑に反対するのは立派ではあります。でも、なんかスッキリしない。
息子であるマーカス・リンドグレーンも父を死刑にすることを望まないと言ってます。自分は真実を知りたいだけだと。
しかし、中国の警察は「証拠をつかんでいる」みたいなことを言っているので、スウェーデン警察の協力がなくても裁判を維持する自信がありそうです。証拠なんて不要な国ですし。
タイの事件も被害者が中国人の殺人容疑なので、中国で裁けます。スウェーデンの事件でもタイの事件でも、どっちでもイケるんじゃないですかね。
もうひとつ中国で囁かれているのはヴェロニカ・リン殺害の実行犯と見られる張建松も殺されたという説です。彼は事件以降消息不明です。これだけでも終身刑まで持っていけるかもしれない。
✴︎ヴェロニカと結婚していた頃の林友
中国政府が林友を裁判にかけることにした理由
気になるのは、なぜ中国政府が今になって、林友を裁判にかけることにしたのか、です。残虐な殺人犯を急に許せなくなったなんてことは考えにくい。共産党政府ほど残虐な存在はないですから、何か思惑があるはずです。
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