中国国内の犯罪についての補足—厳罰が犯罪を減らせていない事実をどう解釈するか-(松沢呉一)
「「日本は甘い」と語る中国人—中国に火事場泥棒がいない理由(絶無ではないながら、少ないのは事実っぽい)」の続きです。
中国の犯罪率は?
「「日本は甘い」と語る中国人—中国に火事場泥棒がいない理由(絶無ではないながら、少ないのは事実っぽい)」の全文を読んだ方は誤解しないでしょうが、「日本は甘いから、自分は悪いことをしている」と中国人が告白しているのでなく、「死刑になりかねない中国では悪いことをしない中国人が、甘い日本では悪いことをする」という事実を述べています。それを嘆いているわけではなかったですが、好意的に受け取れば、「日本では悪いことをする中国人が多いよ」と注意してくれたと言えなくもない。
ここを理解した方でも、「そっか、中国では厳しく取り締まられるため、犯罪が少ないのか」と思ったかもしれません。私もそうかと思ってしまったのですが、現実を知って補足しておかなければと慌てました。
調べてみたら、10万人当たりの年間犯罪率は60.8件で、犯罪大国たる米国の49.2件よりずっと多い。
「WORLD POPULATION REVIEW」Crime Rate by Country 2024
色が濃いほど犯罪率が高く、もっとも濃い色の国が、中南米、アフリカ、中東などに点在しており、中国は次のグループで、197カ国中26位。
日本は22.9件で、犯罪率が出ていない国を除いて、下から7番目ですが、台湾は16.1件で下から3番目。中国に飲み込まれたら、治安が悪化しそうです。
「法律が厳しいにもかかわらず、なぜ中国では犯罪率が高いのか」については、時間があったら調べてみますが、調べていない現段階で考えられる理由はいくつかあります。
まず、中国では「政府批判をしただけで捕まるように、先進国では捕まらない行為が犯罪になる」ってことが関係してそうですが、捕まるような政府批判までするのは年間せいぜい数千人、捕まるのはその数分の一でしょうから、それだけではとうてい高い犯罪率の説明がつかない。
汚職が蔓延し、共産党内の政敵潰しや利権争いによって大量に粛清されることがあることも少しは数字を上げていましょうが、これもせいぜい年間数百といった程度でしょう。
より広く中国の隅々まで浸透しているのは「貧富の差が大きく、泥棒でもしなければ生きていけない貧困層があまりに多い」ってことかと思います。その層が億単位いるのが中国です。
実際に犯罪に至っているわけではないにしても、犯罪をするきっかけが目の前に用意されたら、あっさり実行するのが多いのだろうと想像します。支配層が腐敗していることは誰もが知っているので、「自分だって」と考えるのは無理がない。嘘ばかりの支配層やメディアに倣って嘘をつくのも抵抗がない。
法より上に「中国共産党の正義」が君臨していて、その正義が腐敗している国家では、国民も腐敗するのは必然。上が腐敗し、下も腐敗する気満々。その国民を厳しい法で抑えた結果が犯罪率60.8件。
殺人の発生率も高い
犯罪率だけで見ると、「万引きが多く、殺人が少ない国」の方が「殺人が多く。万引きが少ない国」より犯罪率が高くなってしまいます。死刑になりやすい中国では凶悪犯は少ないかもしれないので、殺人に絞った発生率を見てみました。
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