松沢呉一のビバノン・ライフ

やっと私も語れることを思い出しました—渡邊渚インタビューを読む[前編]-(松沢呉一)

 

渡邊渚インタビューで記憶が蘇った

 

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「週刊現代」の「渡邊渚インタビュー」は一連の問題についての重要な新事実が明らかにされているわけではありません(語れないでしょうし)。渡邉渚って人を今までまったく知らず、今も思い入れなどあろうはずがない私にとっては、その点ではとくに見るべき内容ではありませんでしたが、私の当てにならない記憶が蘇りました。

そのきっかけになったのは後編

 

 

この回の後半では、強烈な誹謗中傷がなされていることを語りながら、「正直、誹謗中傷にはあまり傷ついていません。なぜなら、PTSDになったトラウマのほうが何倍もキツかったからです。ネット上の顔も知らない人に暴言を吐かれても、「そうか~そう思う人もいるんだ」と折り合いをつけるようにしています」「私の言論は誰にも止められない」と言っていて、ここは天晴れ。そう思わなければやってられないということであっても、こういう人の方が応援したくなります。

透明を満たす』を出して、しかも売れているため、いよいよやっかむ人たちがいるでしょうが、すでに書いたように、売名行為だとしても、印税稼ぎだとしても、事実を書いている限り問題なし。そもそもアナウンサーという仕事は名前と顔を売ってなんぼの仕事であって、自己顕示欲がなければテレビでアナウンサーをやろうと思わないって。ライターだってYouTuberだって、多かれ少なかれ、名を売ることや金を得ることを動機にしてます。名を売ること、金を得ることを一切考えたことのない人だけ彼女を叩く資格があります。

ということなのですが、私の記憶を刺激したのは、前半のアナウンサー時代の生活ぶりです。

それなりの期間テレビに関わっていたにもかかわらず、中居正広がきっかけとなった一連の騒動について、自分の経験や見聞したことから語れることがほとんどないことに寂しい思いをしていましたが、この部分を読んで、やっと語れることを思い出しました。

 

 

アナウンサーは完璧でいなければならない

 

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以下です(ここは透明を満たす』からの引用のようです)。

 

仕事は本当に楽しく、天職だと思っていました。一方で、違和感もあった。それは、「アナウンサーは完璧でいなければならない」という会社内の風潮です。

たとえば新入社員のころ、「入社3年間は恋愛するな。アナウンサーは人気商売。現場のスタッフから好かれることが大事だから、もし恋愛がバレたら、あなたを好んで起用していたおじさんたちが拗ねちゃうよ」と言われたことがありました。当時の私は、“女子アナ”とはそういうものだと思い込み、生真面目にその言いつけを守りました。

そもそも、恋愛する余裕もまったくありませんでした。朝の番組を担当していたため、毎日深夜2時台に起床し、さまざまな仕事をこなして帰宅するのは夜。休日は月に4日程度ということも珍しくなかった。

過労から「メニエール病」という耳閉塞感や聴力低下、めまいなどの症状が出る病気も発症しました。それでも、「弱みを見せると仕事がなくなる」と教わっていたため、“我慢するしかない”という思考がどんどん加速していきました。

「飲みの誘いを断ると仕事がなくなる」。そう言われていたので、社内の有力者やタレントとの飲み会にも多忙な仕事の合間を縫って参加していました。

ある大物芸能人がいた飲み会では、その場にいた女性アナウンサーが卑猥な言葉を言わされるという場面もあった。そういったことは多々ありましたが、テレビ業界はそういうものだと飲み込んだし、「断れば番組に使われなくなる」という恐怖から我慢するしかありませんでした。

 

彼女が「違和感」と表現しているのは、「風潮」の表れ方であり、「アナウンサーは完璧でいなければならない」という風潮自体は、それほどおかしなことではありません。フジテレビだけでなく、どこの局でもある傾向だろうと思います。

 

 

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