他人の音源を使った「手パク」がバレたチェリスト—バレたら言い逃れできないのになぜやったのか -(松沢呉一)
他人の音源を使って自分で演奏しているように偽装したチェリスト
キム・スヒョンが未成年だったキム・セロンとつき合っていたことを暴露したYouTubeのチャンネル、ガロセロ研究所は、人気がありつつ、悪徳サイトの代表としてしばしば批判されています。右派のチャンネルなので、左派が強い既存メディアが叩いているってこともありそうです。
そこでいくつか動画をチェックしてみたのですが、音声がなく、テロップだけで進行することも多いため、自動翻訳ができず、そもそも韓国の事情が十分にわかっていないこともあって、どこがどう問題なのか今のところ見極められていません。
動画をチェックしていて、2022年の以下の話に注目しました。
チェロチェアという名前で演奏を公開して人気を得ていたチェリストのYouTuberは自分では演奏しておらず、他人の音源を使って、弾いているふりをしていたと暴露する内容です。
彼女は7年間これをやり続けました。しかし、大学教授を経て、現在は舞台の音楽監督などをやっているぺ・ウンファンというバイオリニストが、ヴィブラートの指の動きがずれていることなどからこれに気づき、ガロセロ研究所に連絡。改めて、ガロセロ研究所とともに全動画をチェックし、オリジナルを特定して、オリジナルの演奏者にも連絡をとって「間違いなく自分の演奏」との証言を得ています。また、ノイズがそのまま再生されている例もあって、言い逃れの余地なし。
この動画にもぺ・ウンファンは登場し、詐欺と名誉毀損告発すると言ってます。名誉毀損は誰に対するものなのかわからないですが、チェロチェアはYouTubeで収入を得ていますし、有料のライブでも自身では演奏していないので、この点は詐欺になるかもしれない。
結局のところ、この告発がどうなったのか、続報が見つからず、チェロチェアが謝罪し、動画を消すなどして、告発しなかったかもしれない。
レアなハンドシンク例
この件は、リップシンク(口パク)に引っ掛けて、ハンドシンクと呼ばれています。リップシンクは自分の声を録音したものを使うだけなのに対して、チェロチェアは他人が演奏したものを使用してましたから、演奏と原盤の侵害です。こっちで訴えれば確実に勝てますが、権利者が告訴しなきゃならず、そこまでする権利者が見つからなかったかも。
一般的ではないながら、hand syncは英語圏でも使用されています。ただ、同じような意味で使用されている例は見当たらず、もっぱら楽器演奏において、左手と右手のリズムを同期させることを意味しています。
上の動画でも、このような例は初めてと言ってますが、チェロチェアのように長期にわたってハンドシンクをやり続け、金を得て、ライブまでやった例が初めてってことでしょう。
事実、韓国語、日本語、英語で検索しても同様の例は見つけられませんでしたが、楽器をやり始めた中高生が友だちを驚かすためのシャレでハンドシンクをやってみることはよくありそうです。そのようなハンドシンクは問題になることがまずないので、検索しても出てこないですが、自分が録音した音源が他人のものとして公開されたという話は探せます(これは日本の例)。
それで話題になり、金を得ようとする人がいないのは、通常の曲のパクリであれば「偶然」「記憶したものを自分のものと錯覚した」「インスパイアの範囲」などと言い逃れができるのに対して、音をそのまま使うと言い逃れができないので、狭い範囲でのシャレを超えて、「バズりたい」「金を得たい」とするような人は避けるだろうと想像します。
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