常勝軍団再建へ。ライオンズが着々と目指す「選手育成戦略」。【特集 ライオンズは変わるのか】
FAの公示が締め切られ、2018、19、22年のパ・リーグ本塁打王に輝いた西武の山川穂高選手が名を連ねた。交渉はこれから実施されていくが、仮に、山川選手が西武以外の球団と契約すると、西武はFA制度導入以降では最多の16人が他球団に移籍した形となる。海外移籍組を含めれば20人と最も多い。
その背景にはたくさんの要素が混在してくるが、それだけ選手がチームから抜けるとなると、当然、チーム編成に歪みが出てきてしまうのは当然だ。FAで他球団から欲しがるような選手を育成するのはそう簡単ではなく、事実、西武は2008年に日本一に輝いているが、常に主力選手を移籍で引き抜かれ、チームを再建しなければいけない状況が幾度も繰り返されている。
現チームも2016年に岸孝之が楽天に移籍したのを皮切りに、野上亮磨(巨人に移籍)、牧田和久(パドレスに移籍)、浅村栄斗(楽天に移籍)、炭谷銀仁朗(巨人、楽天に移籍、来季から復帰)、菊池雄星(マリナーズに移籍)、秋山翔吾(レッズに移籍)、森友哉(オリックスに移籍)が次々に移籍。それでも、2018、19年シーズンを連覇したが、今季は5位に低迷した。
そうなっていくと、球団に求められるのはFA権取得選手の引き留め策を講じていくことと、育成の循環をより良くしていくほかない。渡辺久信GMはかつてのインタビューで「移籍してもしょうがないと思ったことはない。一緒にプレーした選手。必死に引き留めている」と話している。
FA取得選手を引き留めるための交渉はその時次第で様々あるだろう。資金力が潤沢にあるチームではないだけに年によって変わるのは間違いない。一方でチームを安定させるには育成を円滑に進めることにほかならない。
西武は2017年の老朽化に伴い2軍施設の改修工事に着手した。それと並行するように2019年からは3軍制度を導入。育成改革を推し進めるために組織の改変を行っている。2020年には提携先のニューヨークメッツに大石達也氏(現ファーム投手コーチ)を送り込むなど(コロナにより途中中止)育成を計画的に実施するようになった。
ただ、正直、取材する側からすると、その全体像は見えなかった。コロナ禍により情報が遮断されたこともあったが、若手が伸び悩む現状を見ると、スカウティングに頼らざるを得ない現実からは抜け出せない印象だった。
ところが今年9月初旬、ライオンズの広報担当から入団テストを実施するのでと取材可能の連絡をもらうとそこで見た光景はライオンズが新しく生まれ変わろうとしていることが窺える先進的な取り組みをしていたのだった。
入団テストといえば、実践形式を行うトライアウトのようなものだと想像していた。アップをしてキャッチボールをしてネームのあるビブスを着用、投打に別れる。そこで選手たちの力量を、GMなどをはじめ編成の担当者らが見極める。その中で会議を重ねて10月のドラフト会議指名する。
しかし、取材に足を運ぶとまるで想像とは異なっていたのだ。詳しくは過去にも取り上げているが、改めて、当時の様子を少し触れると、トライアウトのような形式もやるにはやるのだが、それは一部でしかなかった。選手たちの能力を測るテストが無数にあった。
50メートル走のところには光電管が置いていてあり、20メートル、30メートル地点のタイムまで計測してあった。
他には無数の光電管に囲まれた場所では光の反応に応じて選手が動くアジリティーの数値を測ることもやっていた。盗塁や打球に対して、おおよそ走力で片付けられることが多いが、それ以外の部分にも着目して、選手の可能性を見出せないかということだ。

入団テストではさまざまな数値を記録していた
そして、それらの能力は先天性のものであるのか、それとも、後天的に伸ばすことができるものなのかもテストしている。入団してから伸びる要素ではない能力なら、現状を測ればいいわけだし、伸びるものであるなら、可能性としてみることができる、というわけである。
このほかにはメディシンボール投げ、出力を図るテストなどを分かれて実施しており、この入団テストが普通ではないことに気付かされたのだ。
つまり、このようなテストをしている時点で、ライオンズは普通ではないことを取り組みとしているということが透けて見えてきたのである。
広報からは「育成のライオンズ」と題したリポートも手渡された。そこには2019年に完成したトレーニングセンターがいかに優れたもので、そして、今、ライオンズは育成に力を入れて進むということが記されていたのだ。
いい選手を獲得する、つまりスカウティングをすれば、いい選手はい生まれる。
多くの人間はそう思いがちだ。しかし、長く野球界で取材をしていくと、スカウティングと同時に、どう育てていくかの土壌がないと育つものも育たないという現実を見てきた。そこには施設の充実と指導者の育成など多岐にわたる要素が必要。たった一つのものだけで変わるものではない。
「編成という面ではどういう人財がいるかはすごく大事な部分です。 ただ、そのプラスアルファを強くしていくのが育成であり、戦略。そこを突き詰めていきたい」。
球団副本部長の広池浩司氏はそう話す。
今、ライオンズは変わろうとしている時期なのだろうか。これを深掘りしていきたい。
そう考えた筆者はライオンズの育成分野の改革に奔走している人物たちのインタビューを敢行することにした。
その取材で分かったのは、ライオンズがスポーツ界をリードしようといった高い志だった。陰で動く男たちのインタビューをお送りする。第1回は球団副本部長の広池浩司氏だ。