彦根総合・宮崎裕也監督コラム「人から人間へ」 第3回:寒青
今月のテーマは「寒青(かんせい)」です。
「寒青」は漢詩に出てくる言葉で、冬の松を表す言葉です。
明の時代の思想家である王陽明の言葉であり、王陽明は日本でも吉田松陰、三島由紀夫らが影響を受けています。私もこの言葉にほれ込みました。
人間なんて、自然の一部だと思っています。人間が自然に勝てるわけないんですよ。私たちは自然から何かをもっと学ばないといけないと思います。
王陽明という人は自然の中のものを見て、そこから学ぶっていうところが凄いです。王陽明が私たちに教えてくれるのは、この「寒青」という言葉だけではなくて、誰もがもっと心を込めて、自然を見つめれば、みんな王陽明みたいになれると思います。
凍てつく風雪の中で、気も草も枯れ果てているのに、松だけは青々と生きているっていうことに目をつけたわけです。それは誰もが見ているはずですが、それを見て何かを感じる人と感じない人がいるわけです。
人生の中では冬みたいに寒くて、苦しくて、辛くて、道が荒れ果てて、どうしようもないような過酷な状況になることもありますが、それでも松はいつもと同じなんです。松の緑は人間に例えるなら笑顔でしょう。笑顔のままでいられるか、イキイキとしているか。彼が学んだのは自分はこの松のように青々と、そしてイキイキと、人を愛して、仲間を信じて、愛して、信じ合って、触れ合って、楽しませるように在る。
楽しむようにじゃなくて、楽しませるように。
何で楽しませるようにとこの人が受け取ったかいうと、自分は松を見てそれを学べることができたから。王陽明は松みたいに、周りの人に何かを感じさせる、何かを学ばせる、そういう人になりたいと思ったんです。
王陽明は「恩伝え」なんです。それがこの言葉以上に素晴らしいです。
プロフィール
宮崎裕也(みやざき・ひろや)
1961年9月17日生まれ、滋賀県出身。比叡山高―中京大。高校3年夏には甲子園8強入り。91年から北大津高の指導にあたり、春夏合わせて6度の甲子園出場に導いた。2020年から彦根総合の赴任して翌年から監督。23年春に甲子園初出場を果たした。