滋賀県に誕生した社会人野球チーム・ムラチグループが目指す未来とは
昨年、滋賀県竜王町に本社を置く村地綜合木材に野球部が誕生。9月の日本選手権近畿地区予選で公式戦デビューを果たしている。
まだできて間もないチームだが、則本佳樹(元楽天)、中道勝士(元オリックス)と元プロ野球選手も在籍。今春加入予定の新人も2019年秋に伊香高が滋賀県大会4強入りした時のエースである隼瀬一樹や京都先端科学の主力投手として活躍した山内翔夢、元徳島インディゴソックスの出岡佳英など力のある選手が名を連ねている。
将来的には都市対抗野球と日本選手権の二大大会出場を目指しているムラチグループ。記事の前編ではチームを立ち上げた鈴木信哉GM(ゼネラルマネージャー)と谷貞郎監督に野球部ができた経緯やこれから目指す方向性について語ってもらった。
野球部創設に奔走
村地綜合木材が野球部創設を検討したのは2022年の夏頃。村地一洋代表取締役(当時)が人材不足とコロナ禍で社内イベントがなくなったことが重なり、「野球を通じて会社が一つになれたら」という想いで構想がスタートした。
そこで声をかけられたのが鈴木氏。BCリーグ・滋賀ユナイテッド設立に携わった過去があり、村地氏とも以前から親交があった。

鈴木信哉GM
鈴木氏をGMに据えて、チーム作りがスタート。監督には近江高出身で、軟式社会人野球チームや学童野球の強豪として知られている多賀少年野球クラブ等で指導歴のある谷氏を招いた。
まずは連盟に登録するために選手集めに奔走した。元々は軟式野球部の創部を予定しており、学校周りを行ったが、反応があまり良くなかった。「硬式の方がNPBを目指せるし、人も集まりやすい」(鈴木GM)と途中で硬式に切り替えた。
鈴木GMらの奔走もあり、昨年4月には選手が集まって、チームが本格始動。春からオープン戦をこなし、秋には公式戦には出場できるようになった。
フルタイム勤務で野球と両立
村地綜合木材は社名の通り、木材を扱う企業。選手はトラックに乗って木材を運んだり、社内で見積書を作成するなどの業務を行っており、中には中型トラックの免許を取得する選手もいる。
社会人野球の強豪チームだと社業で出社する頻度が少なかったり、午前中で社業を終えるチームも少なくないが、ムラチグループの選手はフルタイム勤務。二大大会の予選1ヶ月前からは社業が免除されるが、普段は17時まで社業を行い、18時から2~3時間程度の練習とハードな一日を送っている。
あくまでも社業がメインで、野球は部活動という考えだ。谷監督は言う。
「やっぱり会社の人たちからも応援されるチームにしたいから、しっかり仕事をして、社員の人たちとも仲良くなって、『野球行ってこいよ』と言ってもらえるような環境作りをしようということで始めています。そこは今から2、3年の間は徹底していくんじゃないですかね」
仕事と野球の両立は決して簡単ではないが、引退して社業に専念するようになってもスムーズに移行できるというメリットもある。鈴木GMは野球部員が真面目に取り組むことで、社内の雰囲気が変わってきたと話す。
「初めは困惑していたけど、やっぱり会社に馴染んでくると、休みの日に弟や息子みたいな感じで応援に来てくれる人もいます。そこはやっぱり、本人たちが社内に対して良い環境を作ってるんじゃないかなと思います。『自分らの業務をきっちりすることによって、応援されるから』ということは常に言い続けています」
取材日にも練習参加に来ている大学生がいた。「僕たちは仕事あっての野球なので、社会に貢献できるような人間性というとこを重視しています」と鈴木GMは採用の基準を語る。
「野球の上手い下手はあるかもしれないですけど、野球をする前に人として優れた子が来てくれたら、そういう子は素直だから上手くなっていくんじゃないかなと思っています。初めはそんなに上手くなくても、人柄を優先して、入って来てくれたら育てるという感じですね。そう思ったら、本当に良い子が揃ったかなと思います」

谷貞郎監督
地元の野球少年から憧れられるチームに
チームには19歳ながら4番に座る綾羽出身の荒勇吹や則本など滋賀県出身の選手が多く在籍する。小学生から滋賀県で育った谷監督は地元の子どもたちの目標になることを目指していると話してくれた。
「学生や子どもから憧れられるようなチームになりたいです。僕が学生の時に日本IBM野洲というチームがありましたが、やはり憧れを持っていました。今度は自分たちがそういうチームになりたいんです。地元の子が多いと応援してもらいやすいし、会社としても良いことだと思っています。地元だと野球を引退しても会社を辞める必要がないですからね」
野球を通じて会社の成長と地元の活性化を目指しているムラチグループ。後編では昨年の戦いの振り返りや今年の展望について、鈴木GMや谷監督に語ってもらっている。