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世界にひとつだけの花となれ━━西日本短大付・西村慎太郎監督(前編)

 

監督として母校、西日本短大付(福岡県八女市※以下、西短)を甲子園出場に導くこと3度。九州大会では2019年春に平成最後の王者となり、準優勝も2度達成。このように、九州最激戦区の福岡県において、常にトップクラスの成績を残しているのが西村慎太郎監督だ。
とくに一時離脱から復帰した2001年春以降の安定感は目を見張るものがあり、同年夏、22年春・秋に優勝、23年春に準優勝と、春夏秋の県内公式戦で九州国際大付と並ぶ最多4度の決勝進出を果たしている。
「よそに比べて圧倒的な選手はいない」という西村監督だが、その独特の感性とアイデアを駆使したチーム作りが、秘められた可能性を自ら開花させようとする選手を育てていることは間違いない。
現役時代は同級生の新庄剛志(北海道日本ハム監督)と同じ釜の飯を食った西村監督。夏を目前に控えた今、あらためて「希代の教育者」としても名高い指揮官にスポットを当てた。

個性と個性の化学反応

西村監督は2019年夏の準優勝を区切りとして、いったんは母校監督のユニフォームを脱いでいる。翌春からは福岡市内の福岡大若葉で指導者生活を再スタートさせたが、様々な事情が重なり翌春には再び西短の監督に復帰。そしていきなりその年夏の福岡県を制したのだった。
そして、西短野球部を離れていたこの1年半が、西村監督にとっては指導スタイルを一変させる大きな転機となった。

「以前は母校への思いが強すぎたのでしょうね。まわりのことが目に入らなくなるぐらい気持ちが入り込んでいました。とにかく西短で過ごす3年間は、どの学校の子よりも充実したものにしてあげたいと思っていました。もちろん今もそういう気持ちはありますが、やり方が以前とはまったく違います。『全員で同じ方向を向いてやろう』という気持ちは昔も今も変わりません。ただ、誰かの歌じゃないけど、成長のスピードは人それぞれに違うので、今はひとりずつメニューを変えながらやっています。もちろん全体練習もしますが『みんなが集まらないとやれない練習をやっているだけ。でも、取り組むべき課題はそれぞれ違うよ』と言ってアドバイスを送ったり、個別の練習メニューを与えたりしています。そういうやり方が良いと思えるようになったのも、本当に最近のことです」

全員が同じテーマに取り組み、同じ目標を追求する。以前はそれがチーム力を上げるやり方だと信じていた。「全員がホームランを打てるようになろう」と言っても、中にはどれだけ頑張っても柵越えを打てない選手もい。しかし、そんな選手にも活躍できる場所は必ずある。ホームランは打てないが鉄壁の守備で貢献できる選手もいるだろうし、天性のスピードを活かした足のスペシャリストとして活躍する選手もいるだろう。あるいは、チームに不可欠なムードメーカーとして他の追随を許さない才能を発揮する者もいるはずだ。

「人と違う個性を持った者同士が、同じ目標に向かってやっていく中で化学反応が起きて、素晴らしいチームになっていく。そのことは以前から薄々感じていましたが、やはり僕は現役、コーチ時代に仕えた浜崎満重監督や、全国制覇の経験がある強豪・西短の名前を意識して、なかなか変化に踏み切ることができない部分がありました。しかし、環境が変わり、コロナ禍もあって、当たり前のようにあったものが無くなってしまいました。逆に今まで無かったものが生まれたり、ということも多々ありました。そういう経験を重ねたことで、ようやく“新しいものを生み出していかなければ”という思いに行き着いたのです。それこそが、一度はグラウンドを離れたことで生まれたプラスの部分だと思います。もう他と比べる必要もありません。そういう、良い意味での脱力感が好結果に繋がっているのではないでしょうか」

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