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あの鹿実野球部が長髪に⁉━━鹿児島実・宮下正一監督「変革と不変の狭間で」②

自分で考えて行動に移す。それが一番の力になる

伝統の鹿実野球を変えるほどの強い影響力があった新型コロナの大流行。しかし、予期せぬ非常事態は人や組織を強くする。コロナによって悲しい出来事をたくさん突き付けられた半面、得られるものも少なくはなかった。
「私自身も本当に考えさせられましたよね。“甲子園って、本当になくなってしまうんだな”と。甲子園を奪われて苦しんだ子供たちの気持ちが、指導者としては本当によく分かりますから」と語る宮下監督にとっても、この混乱は自らが変わるチャンスでもあった。

「やっぱり土台になる部分は、礼儀正しさだったり、何事にも本気で取り組む姿勢なんです。それこそが鹿実であると思うので、そこは変わらないようにやっていきたいと思います。それでも子供たちがやりたいことがあるのなら、こちらが締め付けるのではなくて、どんどんチャレンジさせてあげたいなという気持ちになっているのは事実です。今までのスタイルを『緩める』ということではなく、今の高校生は育ってきた社会環境がコロナ前の子供たちとは明らかに違うんですよね。だからこそ、人間生活の基本をしっかり教えたうえで、できるかぎり子供たちに“任せる”ということが大事なのではないか、と思うようになりました。まぁ、年齢のせいかもしれないけどな(笑)」

選手それぞれに対して、問いかける機会が増えたと宮下監督は言う。2024年の夏。宮下監督は井上剣也という最速151㌔右腕にエースナンバーを託した。井上は高卒プロも充分に狙える逸材ながら口数が少なく、どちらかと言えば大人しい純朴な少年だ。この井上の育成に対しても宮下監督は数々の問いかけを行ったが、基本的には「放任」のスタンスを採っていた。

「選手には『どうなんだ? それで本当にいいのか?』とか『その立ち振る舞いでいいの?』ということを言って、考えさせることが増えましたね。『どうなの? 調子は本当に良いのか?』ということを聞いて、ちゃんと自分の言葉で答えさせるようにしています。選手の方から『自分にはこういうことが必要なので、これをやらせてくれませんか』と言ってくることもありますよ。井上はあまり自分から喋る方ではありませんが、自分でいろんなトレーニングを研究しながら、何をやるかを自分で決めています。このように自分で考えたことに関しては、私は絶対に止めません。なぜなら、自分で考えてやったことが、一番身に付くと知っているからです。やらされるより、絶対そっちの方が力になります。昔は『はい!』しかなかった世界ですが、今はちゃんと会話ができるようになっているのかな。そのへんの考え方の転換も、コロナの時期がきっかけになりました」

“言葉”を使える人が天下を獲る

昨年は鹿児島で国民体育大会が行われ、甲子園で優勝した慶應(神奈川)や準優勝の仙台育英(宮城)の野球を目の当たりにした。とくに「エンジョイ・ベースボール」をスローガンに、次々と新しい価値観を打ち出しながら夏の頂点に立った慶應のスタイルには、少なからず揺らいだ部分もあったという。

「じつは一度だけ、長髪にしてもいいかなと思った時期がありました」

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