能ある鷲は爪を隠さず 連投可能なフィジカルを手に入れた予選MVP左腕━━鷲崎淳(JR九州)
九州地区の第1代表として2年ぶりの日本選手権に出場するJR九州。予選1位通過の立役者となったのがエースの鷲崎淳だ。
最速147㌔のストレートとカーブ、スライダー、カットボール、ツーシームを操る左腕で、予選では日産自動車九州との初戦で2失点完投。さらに準決勝の大福ロジスティクス戦では延長10回を投げ切り完封。そしてHonda熊本との第1代表決定戦では、8-5という乱打戦の中で8回から登板し無失点で試合を締めた。見事胴上げ投手となった鷲崎は、大会最優秀選手賞に輝いている。
「今までで一番投げさせてもらった大会でした。大会MVP? それよりも野手に助けてもらいながら全国の切符が取れたことが、シンプルに嬉しいです」
創成館(長崎)では2年春、3年夏と2度の甲子園出場を果たした。下級生の頃から本格派左腕として注目される存在だったが、左肘を故障したことで打者に専念。パンチ力と勝負強さを備えた4番打者として、3年夏の甲子園では初戦の天理戦でサヨナラ打も放っている。
その後、近大に進み指名打者としてプレーしたが、2年冬に「投手をやらせてください」と直訴。そこから投手に専念し、現在へと至る。
JR九州に入社後は同じ左腕のベテラン・井上翔夢や、2009年の日本選手権でMVPに輝き優勝に貢献した濱野雅慎コーチに指導を受けながら、徐々にスキルを高めていった。
「以前の自分は、いろいろネガティブに考えすぎていたところがありました。井上さんからは『結局のところ、ランナーを還さなければいい。どれだけランナーを溜めても、ホームを踏ませなければいいんだ』と言われて、目から鱗が落ちました。ピッチングの中の考え方や“思いきり”の重要性を教えてもらった気がします。濱野さんからは投球フォームに関するアドバイスをいただいています」
今夏のハードトレーニングによって、何年も前から課題としてきたフィジカル面の強化が成功し、九州地区予選のパフォーマンスに繋がったと鷲崎は言う。
「以前は1試合投げたら今回のように続けては投げられなかったので。連投できる体ができたことが大きかったです」
中野滋樹監督からの「カウントの取れるボール、自信のあるボールを何かひとつ身に付けろ」という課題も、大学時代から磨き続けてきたカットボールの精度アップでクリアしつつある。
前回2022年の日本選手権では、日立製作所との初戦で先発するも5回2失点で降板し、チームもそのまま敗退した。チームからの信頼度も増した今回は、予選のような大車輪の活躍も期待されるが、本人に気負った様子は感じられない。
「個人的には自分の力がどれだけ通用するのか。チーム力もどんどん上がってきているので、みんなでどれだけ勝ち上がっていけるのか。本当に楽しみですね」
まもなく京セラドーム大阪に、翼を広げた真っ赤な鷲が放たれる。
◆Profile
鷲崎 淳(わしざき・じゅん) 投手
1998年3月10日、佐賀県三養基郡出身。創成館~近大。179㌢、82㌔。左投左打。
中学時代は佐賀ドリームスに所属し、アジアチャレンジマッチのU-15日本代表に選ばれる。高校時代は2年春、3年夏の甲子園に出場。近大では3年で投手に転向し同年秋の明治神宮大会に出場した。JR九州では入社2年目に西部ガスの補強選手で都市対抗に初出場。日本選手権は今回が3度目の出場となる。多彩な球種でカウントを取り、バッターに絞らせずに打たせて取る投球が持ち味。