九ベ! ——九州ベースボール——

先輩からの「ごめん」で目覚めたルーキーは向上心のかたまり━━是枝丈一郎(JR九州)

50m6秒0の俊足と広角に長短打を打ち分ける打撃技術を武器に、ルーキーイヤーから躍動するJR九州の是枝丈一郎。
日本選手権九州地区第1代表を決めたHonda熊本との決勝では、いきなりの先制ツーランを放ち初回6点のビッグイニングを演出。
小学校でソフトボールを初めて以来、中学、高校、そして大学を通じて全国でのプレー経験がない是枝にとって、今回の日本選手権は自身初の大舞台。さぞかし高揚感に満ちているのだろうと思いきや、新人の3番打者はことのほか慎重な表情を浮かべているのであった。

「“緊張しい”なところがあるので、不安はあります。ドームでプレーすること自体、初めての経験ですから」

社会人1年目は、想像以上に苦しかった。練習のハードさに体重は大学時代から5㌔近く落ち、対戦する相手投手のスピード感、球のキレ、変化量、すべてが想像以上のレベルで対応に苦しんだのだという。

選手としての最大の持ち味は打力だ。高校時代は通算13本塁打のパンチ力で、3年夏の4強入りに貢献した是枝。今回の日本選手権の第1代表を決めた決定戦でも、鮮やかな先制の一発を見舞っている。それでも、まったく納得のいくレベルには到達していないと言った。

「率も残せて長打も打てる。そんなバッターを目指しているので、長打力はまだまだ足りません。広角に長短打は出ていますが、自分が求めているレベルはもっと上なので」

あっという間に駆け抜け、過ぎ去った今シーズン。是枝には忘れられない出来事がある。大福ロジスティクスと戦った日本選手権予選2回戦だ。JR九州の先発・鷲崎淳が9回まで無得点の快投を演じるも、打線が相手投手陣の継投を攻略できず、両チームが無得点のまま9回が終了。延長10回にようやく1点を勝ち越したJR九州が、辛うじて逃げ切ったという試合だった。
5回の攻撃である。無死満塁のチャンスで打席に立った是枝は、ミスショットの遊フライを打ち上げてしまう。そのうえ後続も倒れ、チームはこの試合最大のチャンスで無得点に終わってしまったのだ。

「大会中、同部屋だった4番の山田遼平さんから『ごめん』と謝られたのです。打線の大黒柱でもある山田さんに『後ろのバッターが頼りないから、お前も楽に打席に入れていないよな。ごめん』と言わせてしまったことが、自分にとってはかなりのショックで……。自分もまだまだです。でも、そのことがあったから、決定戦のホームランもあったのかなと思います」

是枝が浮かべる複雑な表情には、いくつもの原因があった。しかし、日本選手権の大一番を目の前にして、もはや一歩も引けない状況に立たされていることも自覚している。

「もちろんチームの勝利が一番です。相手ピッチャーのレベルはさらに高くなりますが、クリーンアップを任されている以上は、できれば複数安打、長打を打ってチームに貢献したいです。そういうプレーができれば自分のことをもっと知ってくれる機会にもなると思います。2年目のシーズンに向けて、走塁も守りもすべてにおいてレベルアップを達成したいと思っているので、そのきっかけにもしたいですね」

今回の京セラドームが、貪欲に高みを目指す是枝にとって、大きなステップとなることは間違いない。

◆Profile
是枝 丈一郎(これえだ・じょういちろう) 内野手
2001年12月14日、鹿児島県肝属郡出身。尚志館~長崎国際大。175㌢、78㌔。左投左打
池之原小1年時に池之原ソフトボールスポーツ少年団に入団し、東串良中時代は志布志ホークスでプレーした。尚志館では3年時のNHK旗大会で準優勝し夏も4強入り。広角に長短打を打ち分けるミートセンスと50m6秒0の足を武器に、社会人1年目から主力として活躍。地区予選第1代表決定戦では初回に社会人としては第1号となる先制ツーランを放ちチームを勢いづけた。

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