九ベ! ——九州ベースボール——

「明るく・楽しく・厳しく」で育てる金の卵たち 鶴居少年野球クラブの現在地

今年も野球シーズンのスタートが近づいてきた。
そこで「九べ」は、入門カテゴリーにあたる学童野球の世界に潜入。
未来の野球界を背負う選手たち、チーム、指導者たちに迫る。
最初に訪ねたのは、大分県中津市で活動する「鶴居(つるい)少年野球クラブ」。
子供たちに野球に関心を持ってもらい、より野球を楽しんでもらうための取り組みについて、加藤久幸監督に話を聞いた。

 

初心者クラスで植え付ける「打つ喜び」

指導者歴20年、監督就任8年目の加藤監督は地元中津市出身。1967(昭和42)年生まれの57歳は、桑田真澄・清原和博の「KK世代」でもある。7月5日生まれは、今を時めくスーパースター・大谷翔平(ドジャース)と同じ誕生日だ。

笑顔で選手たちの練習を見守る加藤久幸監督

練習は水・木曜日を除く週5日間で、平日は17時から19時頃まで。土日は昼の13時から17、18時ぐらいまで行っている。

「できる子は当たり前にできる。でも、できない子を教えるのが難しいんです。ウチは主に試合に出るAチームと、低学年や初心者を教えるチームとに分けています。初心者クラスには専門のコーチに就いてもらって、まず投げ方や捕り方を指導します。キャッチボールができるようになり、普通にアウトを取れるぐらいになるまで指導していくのは、かなり難しいですよね。最近は外でボール遊びができる場所がすくないので、家でキャッチボールをしない子がほとんどです。だから、本当に1から教えなければいけません。小さい頃からボールに触っていないと、テニスボールとか柔らかいボールでフライを投げてあげても、なかなかボールが手に付かないのです。だから、そういう子を1年ぐらいでレギュラーにするのは、なかなか難しいものがあります」

野球に入ってくれた子供たちには、まずは挨拶することの習慣づけから行う。そして、道具の整理整頓をしつける。野球以前のことを当たり前にできる人間になってほしいからだ。入ってきたばかりの子が、できないのは当たり前。そういう低学年の子ができないことを、高学年の子が教えてくれるようなチームを目指している。

野球の楽しさを教えるために、初心者の子には大きめのボールでバッティングをさせる。子供たちは、まずバットにボールが当たることで野球の面白さを知るのだ。だから、少しでも設置面積が大きくなるように、柔らかいソフトボールを打たせる。こうして少しずつバットに当たる喜びを実感させていくのである。

「最初はボールに慣れること、怖がらせないことが大事だと思います。柔らかいボールを使えば、守っている方も捕る際に痛みを感じなくていいですよね。とくに1年生や2年生は、遊びの中で野球を覚えさせて、より好きになってもらるよう努めています」

“選手レンタル”で助け合う

大分県北部で福岡県と接する中津市は、野球が盛んな地域だ。市からは本塁打王、最多安打を1回ずつ獲得し通算2204安打を記録した大島康徳(中日~日本ハム)、最多勝・最多奪三振など2019年のセ・リーグ投手三冠に輝いた山口俊(横浜、巨人など)といったプロ野球のタイトルホルダーが誕生。鶴居少年野球クラブも、奥村征稔(ソフトバンクコーチ)や、2019年センバツ4強の明豊で主将を務めた表悠斗らを輩出している。

2024年の鶴居は、23名の所属選手で全日本学童支部大会にエントリーしている。人数的には、市内でも多い方だという。市内には600から800人ほどの児童を抱える小学校もある。そういった地域では、校内に2チームを作るだけの野球部員を確保できる。ところが、同じ中津でも山間部のチームは極端に部員が減少しており、10人ギリギリ、もしくは9人に満たないチームもある。そういったチームは、1年生や2年生を試合に使わなければ、大会出場も叶わない。したがって、昨年は人数の多いチームがレンタルで選手を貸し出すこともあった。

 

「どの地区も子供の数が減ってきているので、合併チームが増え、消滅するチームも多くなってきました。その点、ウチは6学年30人前後で推移しているので、まだ恵まれているほうです。それでも最近は、大谷効果の影響もあってか、多少盛り上がってきていると感じますね」

加藤監督の話によると、軟式野球の盛んな福岡県や佐賀県に比べ、中津市は試合会場を2面確保できる多目的公園がないのだという。だから野球は、学校の校庭でやるしかない。これは大分県全体にあてはまる傾向だそうだ。とくに中津は子供たちに野球をさせてあげられる公園グラウンドが足りないと嘆くのだった。

各分野のスペシャリストが専門的サポート

鶴居ではお隣の福岡県豊前市からスポーツトレーナーの林政人さんを招き、2週間に一度のペースで講義を行っている。そこでは野球以外の体のバランスの取り方、走り方などの指導を受ける。林さんの話では「体を動かす」という感覚が身につくのは、小学校3年生までだという。たとえば、高学年になってラダートレーニングを始めても、なかなか上手にできない子は、低学年時にリズム感が身に付いていないということらしい。

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