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球数? 実戦? それとも走り込み⁉ 宮崎学園・崎田忠寛監督が考える「一流ピッチャー」の資質

2025年の高校野球は3月1日に対外試合が解禁される。
今年はどんなドラマが生まれ、新たなスターが出現するのか。
注目のシーズン開幕を前に、注目の指導者をフォーカスした。
登場いただくのは、宮崎学園・崎田忠寛監督。
2023年夏にチームを初の甲子園に導いた指揮官は、自らも長崎日大3年時に甲子園出場。
投手指導においては九州屈指の手腕を持つ崎田監督に、独特の投手育成論を訊いた。

崎田 忠寛
(さきた・ただひろ)

1981年9月24日、長崎県諫早市出身。長崎日大では3年夏にエースとして甲子園に出場。国学院大を卒業後、日体大で体育教員の免許を取得し、宮崎学園へ。野球部のコーチ、部長を経て、2011年に監督となる。主な教え子に横山楓(オリックス)、河野伸一朗(ソフトバンク)ら。保健体育科教諭

 

強い向上心があれば2番手がエースを逆転することもある!

━━ご自身が甲子園を経験したピッチャーでもあるだけに、理想のピッチャー像への持論もあるかと思います。
「やっぱりピッチャーは『ゲームの8割を占める』と言われているだけあって、チームとしてもっとも大事なポジションだと思います。その中でも私が求めているのは、先発完投ができるピッチャーですね。最近は分業制が主流になって、継投がメインの高校野球になっていますが、基本的には先発完投能力を備えたピッチャーを作りたい。結果的には、それぞれの個性を活かしながらピースをはめていくので、継投という形になってしまうのかもしれませんが、理想は9回をひとりでしっかり投げきってくれるのが一番ですね」

━━多くの方は「ピッチャーは第一にコントロール」と仰います。そこについては同意されますか?
「もちろんコントロールは大事だと思うんですけど、私が一番に求めたいものは“自分自身を高めたい”という気持ちです。球を速くしたい、コントロールを良くしたい。もっと上手くなりたい。勝てるピッチャーになりたい。そういう思いを持ったピッチャーが、一番伸びると思うんです。まずその気持ちがなければ、一番大事と言われているコントロールも良くはならないでしょう。いくら間違いのないコントロールを持っていても、向上心がなければピッチャーとしての成長はありません」

━━向上心や意識の高さは、やっぱり人それぞれですよね。
「たとえば中学時代に評判で、鳴り物入りで入ってきたAというピッチャーがいたとします。そういう子は、高校に入るとチーム内の競争で苦も無く勝ってしまうので、あまり練習をしなくなったりして、そこから伸びなくなるケースもあるのです。それよりも、中学時代は2、3番手だったけど『僕は良いピッチャーになりたいんです』という確固たる向上心を持っているBの方が、本当によく練習をするので伸びていきますね。今も中学時代にほとんどピッチャー経験がない子がピッチャー練習をしていますが、向上心が強くて、毎日いろんなことにコツコツと取り組んでいます。そういう子は、指導者として何とかしてあげたいなと思います。もちろんAが眠らせている部分を引き出してあげたいなとも思いますよ。もともと持っているものが良いので、そこを引き出せないのは、指導者としても不本意ですからね」

エースは先発完投! 疲労した状態の自分を知ることも大事

━━エースピッチャーには、基本的に先発完投を求めますか?
「結局、完投できるピッチャーが自然とエースになっていくんですよね。投げるスタミナ、精神的なスタミナが備わっているから、完投できるわけなので。そして、そういう子は負けん気も強いので、自分自身をどんどん高めていくことができます。それこそが、エースが持つべき一番の要素ではないでしょうか。まわりのピッチャー陣に負けたくない、もちろん相手チームにも負けたくない。そして、自分にも負けたくない。そういう部分を持った子が、最終的にはエースになっています」

━━そういうエースの資質を持っているのに、眠らせたままなかなか発揮できない子もいると思います。そういうピッチャーには、どうやって気づかせていくのですか?
「まずは指導者がピッチャーひとりひとりの性格を知ることでしょうね。そして、練習を見ながら気になることがあれば、本人と意見を交わしていく。『俺はこう思うけど、どう思うか?』と問いかけながら、細かく擦り合わせていきます」

━━1年生は入ってきた段階で、当然選手の個性も体力も違うと思います。その中で、先発完投能力をどれぐらいの時間をかけて作っていきますか?
「もちろん入ってきたばかりの子たちは、試合に投げさせることはあっても完投はさせません。じっくり時間をかけて、最初の冬を越えて2年春になる頃には、完投できるだけのものを求めたいですね」

━━ピッチャーが完投することの意味、メリットをどのように考えていますか?
「ピッチャーは力を入れるポイントを覚えるだけではなく、同時に相手バッターの力量を見極めながら力をセーブするといったテクニックも必要です。経験を重ねることで、相手への観察眼も高まっていくので“このバッターには多少甘くなっても大丈夫”といった強弱が付けられるようになっていきます。そういうことを覚えさせるためにも、長い回を投げさせて経験を積ませたいですよね。それに、体が疲れてきた時にこそ、いろんなことに気づき、覚えることもありますからね」

━━大学・社会人を経てオリックス入りした横山楓投手も、最初はじっくり体から作っていったのですか?
「入ってきた時は本当にヒョロヒョロで、弱々しかったですね。だから1年間はほとんど何も言っていないと思います。トレーニングを始めてすぐに『腰が痛い』と言ってきましたが、それでも私は『しっかり休んで、怪我を治して、まずは練習できるようにしなさい』ということぐらいしか言っていないと思います。そこでも横山の成長度合いに任せて、こちらから無理を強いるようなことはありませんでした」


まずはチェンジアップを覚えるべし!

━━横山投手は、ピッチャーとしてどの部分を一番評価していましたか?
「やっぱり真っすぐで空振りが取れていましたよね。変化球よりも、真っすぐの質でした。変化球も極力、負担が少ないチェンジアップを投げさせました」

━━変化球(新しい球種)を作る時に、心がけていることはありますか?
「自分で捻って投げるような変化球ではなく、握りを変えるだけで真っすぐと同じ腕の振りで投げられる変化球。チェンジアップやカットボールが、まさに理想だと思います。だから、今のピッチャーにも『まずはチェンジアップを覚えなさい』と言っています。最近はパワーピッチャーほどカーブやスライダーで三振を取りに行くイメージがありますが、チーム全体のリズムも良くなってくるので、タイミングを崩せるチェンジアップで打たせて取った方がいいのではないか。カットボールもあまり負担がなくていいですよね。握りの位置をちょっと変えて真っすぐを投げれば、カットボールになるので。そういう負担にならない変化球だったら、どんどん投げた方がいいと思います。スライダーだと肩や肘に負担がかかってしまう。フォークやスプリットだと、握力がなくなって他の球種にも悪影響を及ぼしちゃう。僕はカーブが得意だったんですけど、意外にカーブはモノにするまでが難しい。大学や社会人、プロに行ったら何を投げてもいいと思うんですよ。体がしっかり出来上がっているし、コーチ陣も充実していますからね。でも、高校生はなかなか体が付いていかないです。自分自身の経験上、そう思います」

脚力のあるピッチャーは球が速くなる

━━宮崎学園は横山投手をはじめ右の好投手が次々に出てくるイメージが強いです。その中で河野伸一朗投手(ソフトバンク)のような大型左腕が現れ、2023年には学校初となる甲子園出場の立役者となりました。

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