日本の「わいせつ」分類と改善すべき範囲—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[9]-(松沢呉一)
「裸祭りの「事故チンコ」とサンバダンサーの「事故乳首」—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[8]」の続きですが、「補足編」にも目を通しておいてください。
これ以上、後退すべきではない
議論が混乱することを避けるため、先に「補足編」で、「日本では当面改善不可能なパート」を確認しました。ここから本論に戻ります。
裸を読む力を奪われている日本において、一個人の意識を変えるだけなら、日々、インターネットでナチュリズム、ボディペインティング、ワールド・ネイキッド・バイク・ライドなどを見続け、あるいはミロ・モアレのようなアーティストの活動を追い、欧米+αの文化圏における裸の位置づけを知ることで認識を改めることは可能でしょう。その結果、同じ全裸、同じキンタマやマンスジでも、猥褻なものとそうではないものがあって、その間の線引きも可能になろうかと思います。
しかし、そこで変革された意識をもとに、日本で全裸で自転車に乗ったらすぐさま捕まります。モデルを雇って全裸にボディペインティングを施して撮影し、YouTubeに投稿しても削除されませんけど、警察に捕まる可能性があります。海外にサーバーがあってもダメ。
それどころか、ニューヨークに行った際にたまたまボディペインティング・デイに出くわして撮影し、それをあちらの国で投稿してさえ逮捕される可能性もあるのです。法的には大麻を合法の国で使用しても逮捕され得るのと同じく、おかしなことになっています。
インターネットを観て得た感覚を自ら実践することができない。今回のエロ中継で逮捕されたのは女性が多いように、自身の体を使って搾取なく金を得る方法がこの国では違法になってしまう。
「搾取するな」とバカの一つ覚えを根拠にした性風俗、性表現否定論者たちは怒らなきゃ。こういう人たちのエロ規制の本質は道徳の維持であり、はしたない女たちの自己決定を潰したいのだということがバレちゃいますよ。
こんなバカな話があるかってことなのですが、現にそうなっています。日本においては、そういった国々の感覚など知らないまま、全裸はつねに猥褻なのだと信じこまされ、あるいは望んでそう思い込んでしまったがために、「海外ではこんなことはあり得ない」と言い続ける道徳派の虚言がまかり通ってきて、裸は規制され続けていると言ってもいいのではないかと思います。
※今年も半分以上終わってしまいましたが、ミロ・モアレは今年もカレンダーを出したのかなと思って検索したら出てました。『LIBERTINE: Kalender 2019 mit Milo Moiré fotografiert von Peter Palm』 これなら日本でもギリギリ販売できそうですが、アダルト商品にされてしまってコンビニでは販売できない。コンビニでこんなん買わないでしょうが。
「猥褻」の整理
憲法に表現の自由が謳われ、新聞紙条例、出版条例が廃止され、内務省の検閲がなくなった点で、戦前より戦後の方がずっとよくなったことは間違いない。しかし、戦後で見た時に、欧米+αグループとの差は拡大する一方であり、日本ではむしろ屋外撮影については175条違反の証拠にされるようになって後退し、アート文脈でもエロ文脈でも、国内では私有地以外で撮影したものは公開不可になってます。
京都造形大学への訴訟も起きて、「アート文脈」が根底から崩されつつあります。
現実の海外を無視して、虚構の海外を持ち出す虚言者たちによって、コンビニ規制も進んでいます。
どこかでこれをストップしないと、「虚構の海外派」はすべてを潰しにかかります。目的地は自分の気に食わないものが一切ない虚構大陸ですから、際限はない。
では、どこをどうしたらいいのか。
明治以降、今に至るまで、社会的法益の法律によって違法にされている日本の「猥褻行為」は以下のように整理されるでしょう(強制わいせつ罪等は個人的法益の法律なので、ここでの対象ではありません)。
1)公園・広場・公道など、公共の場での猥褻行為(セックスするだの、オーラルセックスするだの、性器をいじるだの) 174条
2)欧米+αでは猥褻ではないとされている公共の場での裸(アート、ナチュリズム、抗議等) 174条
3)閉鎖された私的空間における不特定多数を対象とした、欧米+αでは猥褻ではないとされる裸(ナチュリズムのパーティやアート、演劇の全裸) 174条
4)閉鎖された私的空間における不特定多数を対象とした猥褻な裸や行為(ストリップ、ハプバー、ハッテン場等) 174条
5)インターネットを通じて不特定多数に向けた裸や性的行為を配信する行為 174条・175条
6)性器、性行為を表現した二次元、三次元の記録物の展示や頒布 175条
※ここでの「不特定多数」は現状の公然わいせつの要件とされる「不特定または多数」であり、「不特定かつ多数」ではありません。
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