暴力団員の子どもは入社させないのが正しいのか?—懲戒の基準[32]-(松沢呉一)
「銭湯で知った田口淳之介と小嶺麗奈の愛の行方—懲戒の基準[31]」の続きです。
暴力団員と交際しているだけで会社を解雇されるのは正当か?
「懲戒の基準」でずーっと書いているように、懲罰は法律で決定しているわけです。それでおしまい。ただ、会社のルールってもんがあって、それに合意して働いているわけですし、職業倫理ってもんがありますから、それに反したら懲戒が待っています。法による懲罰があるのですから、とくに私生活での行動に対する職場の懲戒が厳しすぎるのは考えものです。
では、もし会社員だったら、詐偽グループの宴会に出たことで懲戒されるのかどうか。
前回見た「しらべぇ」の「太田光、謹慎中の宮迫博之を全面擁護し物議 「バカだから兄貴ヅラして付き合っただけ」」に、いくつかのツイートが転載されていて、「普通の会社員は反社会勢力と関係があったら会社首になる」と書いているのがいますが、そんなことはねえって。そういう会社もあるだろうけど、それが「普通」とは言えない。会社は無制限に懲戒解雇できると思い過ぎです。「私」を消して会社に身を捧げるからそうなる。
たしかに昨今では服務規程等で「反社会的勢力との関係をもった場合は事情にかかわらず懲戒処分」という規定がある会社も存在するでしょうが、数は少ないと思います。その規定がない限りは私生活における反社会的勢力との交遊で処分することは難しい。解雇されたら裁判で闘っていい。
今回のケースと同じことが会社員で起きた場合、その規定がなければ、副業禁止の条項で処分になります。重くても停職相当でしょう。
中学の時の友だちが詐偽グループに入って、そいつの誕生日会で一曲歌っただけでは処分されない。金をもらったら、そこで処分されるだけ。詐偽に直接関与して幇助か何かで捕まったらまた別の話。
社会的影響力がある分、芸能人に対しては厳しくていいとも言えます。一私人として出席したのでなく、芸能人として出ているわけですしね。そこまでは私も同意しますが、それでも、数ヶ月の謹慎だけで十分だと思うなあ。
組長の娘と恋に落ちたらどうするよ
少数ではあれ、現にそういう会社もあるわけですが、一律に「反社会的勢力との関係をもった場合は事情にかかわらず懲戒処分」という規定もどうかと思います。
暴力団員の息子なり娘なりが、そういう規定のある会社に入ろうとしたら、その規定をもって入社を拒否されます。隠していたら、バレてしまって解雇されます。この場合、親との縁を切らなきゃならんのか?
一般の人だって、「反社会的勢力との関係」がどうしようもなく生じることってあるんですよ。そりゃ自分と同じ優等生としかつきあわずに死んでいく人もいましょうけど、以前はそうじゃなかった友だちが気づいてみたら組員になっていたり。
これは私自身、経験があります。数年振りに会ったら組員になってました。詐偽をやっているんだったら、「やめろ」と言いますが、博徒系、テキ屋系だったら黙認。
関係を持つこと自体でアウトなら、そいつに「詐偽はやめろ」と言う人間もいなくなるだろうが。
たまたまつきあい出した相手の親が組長ということもあるでしょう。家に行くと組長がいて、話くらいしますよ。メシを食うこともありましょうよ。
その相手と結婚したら、より近くなります。有名どころではミュージシャンの喜太郎の前妻は山口組田岡組長の娘です。親子の縁を切るわけにもいかんでしょうし、親が組長だから好きになるなとか、結婚するななんて言えないでしょ。
組長の娘と恋に落ちたことはないですが、女友だちの彼氏が組員だったり、夫が組長だったりしたことはあります。「良識ある暴力団員」だと、こちらに配慮して、会っても、その部分には触れないし、こちらを巻き込まないようにします。なにかしらのトラブルの解決を依頼したら暴力団員とのつきあいの始まりですが、そこに至らない関係であっても、懲戒にするのはどんなもんかと。
子どもが学校で仲良くしている友だちの親が暴力団員だったりすれば、親同士の間で通常生じる関係にはなりましょう。子どもが家に行ったり、親が迎えに行ったり、運動会で同じシートになったり。子どもに「あの子とはつきあうな」と言うべきですかね。なんと殺伐とした社会でありましょうか。
暴力団員としての活動に関与しない限り、この規定は適用されないとすべきだと思います。
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