ピエール瀧逮捕を契機に考える「制裁欲に駆られる人々の害」—懲戒の基準[14]-(松沢呉一)
「ピエール瀧が逮捕されて電気グルーヴの曲が聴けなくなる理不尽—懲戒の基準[13]」の続きです。
ピエール瀧逮捕の波及
電気グルーヴのCDの出荷停止、配信中止についてはあちこちから声が上がっていて、いい流れだと思います。どっかで歯止めをかけねば。その意味ではピエール瀧はいい仕事をしました。
2019年03月15日付「ハフポスト」より
著名人だけでなく、また、作品だけでなく、前回書いた「大麻取締法では使用だけ、つまり吸引だけでは処罰されない。海外で所持、販売した場合は、大麻取締法で裁かれるが、現実には立件しようがない。にもかかわらず、そのいずれもバレた時には懲戒免職になる問題」にもこの機会に目を向けて欲しい。
無関係のようにも思えましょうが、これはつながっています。不祥事があると「解雇しろ」と職場に要求する人たちと、不祥事があると「CDを販売するな」と要求する人たちは、法や契約を超えて、個人の行為に対する処分を重くすることを求めているってことです。法による処罰では飽き足らず、その行為をした人に徹底的な制裁を加えないと納得しない人たち。
重罰化の間違い
社会にとって都合の悪いことは犯罪にして罰し、それでも効果がない場合は重罰化すれば解決するという幻想は捨てた方がいい。とくにドラッグや売春、わいせつ物頒布のような社会の秩序を守るための社会的法益の法律の重罰化は、社会秩序を上位において個人の自由を制限する発想である上に、その効果も怪しい。というより、ほとんど効果は否定されているでしょう。だから大麻や麻薬の重罰化と逆行している国が多いわけで。
にもかかわらず、重罰化を求める人たちは問題の解決を求めているのではなく、自身が判定者となり、人を断罪する立場になった錯覚に酔いたいだけでしょ。
私の中にも時に制裁を加えたい感情は生じますが、社会的法益の法律に反したからと言って、職まで失う必然性がどこにあるのかわかりませんから、決してそんな馬鹿なことはしない。孤立をすると、またドラッグをやるしかなくなりますよ。
「現に法律に反したのだから」として制裁欲を無闇に発揮する人たちは、その法の是非や制裁を加える妥当性を考えることなく逮捕するのが仕事の警察官に向いています。警察官になれないんだったら、マリファナでもキメて解放された方がいいと思うぞ。昨年カナダもマリファナが合法化されているので、カナダにでも行ってこい。
カナダでは合法であり、属地主義から言えば、日本の法律でその地での行為を禁じるのはおかしいのですが、現に禁じられています。しかし、実質的にそれを禁じる効力はない。日本の警察は調べようがないので問題なし。
※厚労省のポスター 「大麻の使用は無罪です」と法律を正しく伝えた方がいいんじゃないか。マリファナを吸って運転して事故った例くらいはあっても、それ自体で死んだ人はいない程度の害をことさらに強調する厚労省の方が有害。害が一切ないものしか合法化してはならないのであれば、風邪薬も禁止するしかないでしょう。毎年、風邪薬で死んでいる人がいるんですから。
外務省の呼びかけを添削する
カナダの合法化を受けて、カナダの日本領事館は邦人に対してこんな呼びかけをしてました。
なんでどこも法に基づいた正確な情報を流さないのかなあ。添削します。
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