現実とファンタジーの区別ができない人たちの弊害—『マゾヒストたち』(10)-(松沢呉一)
「全裸より着衣で興奮が生じる現象—『マゾヒストたち』(9)」の続きです。
このシリーズは全体の流れや構成を考えて始めたわけではないので、話があちこちに飛びます。ご了承ください。
やってはいけないことが欲望を喚起する
検索しても誰だったかわからなかったのですが、米国のフェミニストで、過去の話として、レイプを告発する本のレイプ描写でオナニーをしたと告白したのがいたと記憶します。
ゲスいですけど、何でオナニーしようと勝手であり、しばしばマゾ的ファンタジーは、現実の判断とは逆方向で成立しますから、そういうことも起きてしまう。
言うまでもなく、この人がレイプを肯定したり、現実にレイプを望んでいるわけではありません。プレイとしてのレイプは楽しめることがあるとして。
現実にはあってはいけないことでも性的な興奮を得る。あるいは現実にはあってはいけないことだから性的な興奮を得る人たちがいるのです。
『マゾヒストたち』に、日本のSMクラブに来た中国人の客が「731部隊の女兵士に人体実験をされるプレイをしたい」と所望し、女王様が「日本軍に女兵士はいなかった」と説明しても、「やって欲しい」というので、プレイに応じた話を書きました。
これも同じで、この中国人が日本軍のやったことを肯定しているわけではなく、理不尽に実験され、殺されるファンタジーの設定として、それを好むのです。
ドイツ人には、あるいはイスラエル人には、アウシュヴィッツで女看守にいたぶられるプレイをしたがる人たちもいるだろうと想像します。おそらくイルマ・グレーゼがダントツ人気です。その時には、実際に彼女がやったとされる行為よりももっとひどい妄想が駆け巡ります。ファンタジーは容易に現実を乗り越えていく。
これらは典型的な不快を快に転ずる現象であり、現実と錯覚しない限り、許されるファンタジーです。しかし、現実とファンタジーの区別ができない人たちがいるのです。自身の中のファンタジーを自覚できていない人たちは危険です。
※香港で活動する愛花女王様。日本人かどうかまでは書かれてないですが、東京生まれで東京育ちだそうです。日本人を自称している女王様も同サイトで見つけたのですが、これは他サイトに誘導するためのウソみたいです。日本人女王様の緊縛プレイは人気がありそうですが、国外に出る日本の女王様はまだまだ少なく、自信のある人は香港に移住するといいかも。機動隊を鞭で叩くと人気爆発。国外退去になりますけど。
ナチスのサディズム・マゾヒズム
意識できる人・できない人・性的になる人・ならない人、その心理が強い人・弱い人がいますが、厄介なのは、サディズム、マゾヒズムが強いのに、その自覚のない人です。
ナチスを見れば、人間の中には残虐性を持つ人たちがいることはわかります。直接自分が関わらないところで机上の計画を立てたヒトラーやヒムラー、それを職務として実行したヘスは実のところサディズムが決して強くはなかった可能性が高く、ヘスに至ってはマゾ性の方が強かったと思いますが、ヘスが証言していたように、鞭打ちを見ることを楽しみにしていた親衛隊員もいました。
誰がどうだったか結局のところ私にはよくわからないのですが、女看守の中にもそういうのはいたでしょう。
しかし、それはナチスの側にいただけではありません。数々のポグロムをやった人たち、パリでの女たちへの報復や東ヨーロッパでのドイツ人への報復をやった人たちも、それぞれにそうする正当性を見出すと同時に、そこになにがしかの快楽があったのだろうと思います。正当性はサディズムを導き出す。
さらにはどんな戦争でも、多くの人たちが残虐なことができてしまう。戦争が終わってから、「あの時はどうにかしていた」「戦争の中で狂ってしまっていた」なんて言いますが、そういう特性を普段は抑えているだけなのだと考えた方がよさそうです。
※香港のアマンダ女王様。現役学生らしい。香港は店という業態はNGで(それらしきものもありますが、おそらく違法)、個人営業のみ合法のようです。個人だと玉石混淆になりやすいですが、アマンダ女王様は学生のわりにはいっぱい道具をもっていて、しっかりしたプレイができると見た。複数女王様もできます。大学の友だちでありましょうか。なお、個人サイトでは性器まで出していることがあって、英国統治時代には解禁されていたのかな。
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