松沢呉一のビバノン・ライフ

与謝野晶子も優生学を肯定的にとらえていた—平塚らいてうの優生思想[付録編 1]-(松沢呉一)

「平塚らいてうの優生思想」シリーズの補足です。

 

 

平塚らいてうの恥部を直視すべし

 

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優生思想をつきつめたナチスの出した結論を知っている今の時代から、戦前、優生思想を肯定した人々を批判するのはフェアではないかもしれないですが、いわば身内であるにもかかわらず、平塚らいてうを強く批判した与謝野晶子がいたことは、「そういう時代だった」として容認できるものではないことを示していましょう。

「そういう時代だった」という安直な擁護はナチスのホロコーストや、国民優生法・優生保護法による断種をも擁護することになりますので、やめた方がいいです。

予告編に書いたように、検索すると、平塚らいてうが劣悪な優生思想の持ち主であったこと、それを法として実現しようとしたことの問題を扱った論文を複数読むことができますが、一般にはこのことはあまり知られていないでしょう。つうか、平塚らいてうが何をして、何を主張したのかについても正確に理解している人は少ないのか。

日本を代表するフェミニストである平塚らいてうの恥部に触れることに抵抗が生ずる人もいるのでしょうけど、平塚らいてうの評価すべき点は何と言っても「青鞜」を創刊したことであって、その評価が揺らぐものではないですから、是々非々で評価すればいいだけかと思います。

負の側面も正しく検証して公開しているフランシス・ウィラード・ハウスを手本にしましょう。これをやることで、「敵を利する」だの「女を分断するな」だのと、フランシス・ウィラード・ハウスを攻撃してくるのもいそうです。米国にはそんなにはいないか。

批判しなければならないことをしたのは一体誰か。フランシス・ウイラードです。敵を利するようなことをしたのはフランシス・ウイラードその人なのです。「敵を利する論」は身内の愚行を容認、敵を利する行為を容認することに他ならず、ホントにくだらない。

平塚らいてうの優生思想は批判するに足るものだと思いますが、かといって「日本のフェミニストはこんなもん」と言い切ってしまうこともできません。たいていこんなもんですけど、現にこれを批判したのも、フェミニストたる与謝野晶子です。与謝野晶子に同調したのがいたのかどうかわからないですが、少なくとも与謝野晶子は公然と強く批判をしました。与謝野晶子が、身内だからとして批判を控えなくてよかった。身内の恥部は身内が批判すべきなのです。

しかし、平塚らいてうが優生思想の類い稀な支持者であったとまでは言えないかもしれない。優生思想を支持していた人は少なくないのです。予告編にも書きましたが、ここんところは正確に理解していただくために補足をしておきます。

Queens of Vintage

 

 

優生思想と民族主義・国家主義・社会主義

 

vivanon_sentenceホロコーストをやらかしたためにナチスばかりが大きく取り上げられますが、優生思想を支持する人たちの幅はあまりに広い。優生思想に基づく断種を法制化したのは、ドイツのみならず、日本、米国、カナダ、スウェーデン、スイスなどがあります。今もウイグルで実施していると言われる中国は別格として。なんであんな国が許されてんだよ。

優生思想は支持しても、断種は支持できないという人たちもいたわけですけど、断種までを肯定する法が制定されたくらいで、大多数の日本人は程度の違いはあれども、優生思想を肯定的にとらえていたろうと思います。

すでに見たように禁酒運動にも優生思想は影響していて、「酒は国家、民族、社会を劣化させる」という考え方がありました。

また、産児制限運動にも優生思想の影響を受けた人々がいました。ここが産児制限運動の危ういところでありますが、産児制限運動では国家主義者から無政府主義者まで、さまざまな潮流が錯綜していて、日本においては婦人運動ではなく、社会主義者が積極的でした。

その代表的な人物が安部磯雄です。断種までを肯定したのかどうかわからないですが、この人はエドワード・ベラミー著『百年後の社会』を無条件のユートピアとしてとらえたように、全体主義に抵抗がない人です。むしろ全体主義によって社会を幸福にできると考えていたのだと思えます。

これは社会主義者であるとともに、矯風会や救世軍とも密接につながっていた安部磯雄のプロテスタントとしての考え方だとも思われます。

 

 

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