チリの憲法改正と教会の焼き討ち—ポストコロナのプロテスト[75]-(松沢呉一)
「地下鉄値上げ反対闘争から始まったチリの反政府運動—ポストコロナのプロテスト[74]」の続きです。
警察と軍の暴力がプロテストを高めた
チリのプロテストの高まりの背景にあるもうひとつの要因は警察と軍の暴力です。
前回観たガーディアンの動画に葬儀デモの様子が出て来ましたが、昨年12月末までにプロテスターの29人が死亡しており、負傷者多数。軍や警察は実弾を撃ってますから。
おそらく多くはゴム弾によるものだと思いますが、失明した人も多数出ています。
チリ警察の暴力はピノチェト時代の遺産でありましょう。
新型コロナでプロテストは沈静化
今年に入ってからも激しいプロテストが続きます。
南米では、ヨーロッパの地名をそのままつけていることがよくあって、このモンテカルロは、サンティアゴ市内のリゾート・エリアのようです。そこで開かれている音楽フェスの外でもプロテストが行なわれたという内容。
これは2月25日の動画で、この段階では新型コロナの感染者は出ておらず、危機感もなし。
以下は死亡者。
2020年12月5日付「worldometers」
死者数が飛び抜けて多い日があるのは、カウント方法に変更があって、それまでカウントされていなかった分を上乗せしたため。
Tシャツをマスク代わりにしてもいい
3月に入って感染者が発見されてあっという間に拡大し、3月25日には感染者数は千人を突破。翌26日には夜間外出禁止令が出され、4月8日から公共交通でのマスクの着用が義務づけられます(のちに範囲を拡大)。最大250万ペソの罰金。日本円で35万円くらい(!)。しかし、口を覆えばなんでもよく、スカーフやバンダナでもいいし、服を口まで上げるだけでもいいみたい。罰則は厳しくても、運用はゆるそうです。
Tシャツをマスクにする方法も保健相が伝授。
しかし、感染拡大は止まらず、5月に入ってからさらに急増して1日の感染者数が千人を超えます。
危機感を強めながらも対策はうまくいかず、今現在、感染者は55万人、死亡者は1万5千人。感染者数の単純比較で、ラテンアメリカではブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、ペルーに次いで多いのですが、ブラジルの人口は2億1千万人、メキシコは1億2千万人、コロンビアは5千万人、アルゼンチンは4400万人、ペルーは3300万人。対してチリの人口は1900万人です。人口比では、ブラジルが抜きん出ていて、あとはどっこい(人口比で見た時の検査数はチリは多いため、その分発見されやすく、実際の感染者は他の国はもっと多いかもしれない)。
しかし、政府にとってはもうひとつの危機であった反政府運動を抑え込むことには成功し、4月に予定されていた憲法改正の国民投票を10月に延期、これに対して目立ったプロテストは起きなかったようです。国民もウイルス対策には納得していたのだろうと思います。
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