松沢呉一のビバノン・ライフ

チリの憲兵隊カラビネーロスとカトリックの関係—ポストコロナのプロテスト[76]-(松沢呉一)

チリの憲法改正と教会の焼き討ち—ポストコロナのプロテスト[75]」の続きです。

 

 

 

カトリック教会がカラビネーロスの出先機関と化していた時代

 

vivanon_sentence調べていくうちに、思ってもいなかったチリの特殊事情が出てきて、たまたまそこに教会があったから火をつけたのではありませんでした。

1925年までカトリックはチリの国教でした。この年に分離されるのですが、以降も国家との密接な関係が続きます。

チリにはカラビネーロス(Carabineros de Chile)という組織があります。国防省に属する軍なのですが、業務は警察に近くて、敵国と闘うのではなくて、国内の治安担当です。国民の教育や家庭の安全もこの組織の担当で、サイトでもそこを前面に出していますが、治安警察であり、おそらく思想警察でもあります。憲兵と特高を合わせたようなものか。

カラビネーロスの歴史は古くて、18世紀の自警団が始まりですが、正式に中央政府の組織に組み込まれたのは1927年です(カラビネーロスのサイトによる)

1973年、ピノチェトのクーデターの際にも加わっており、虐殺にも関与したようです。

このカラビネーロスの「管理下」にあるのがカトリック教会なのです。この「管理下」という表現は組織として組み込まれているという意味ではないのですが(神父が公務員だったり、組織図に教会が出ているわけではなく、あくまで教会は独立した組織)、チリ政府とカトリックの間に契約が結ばれていて、ピノチェト政権下にはイグレシア・デ・アスンシオン教会に附属する建物にカラビネーロスのオフィスが設置され、ここで取り調べや拷問が行なわれていたと言われています。

おそらくその関係から教会は住民の監視や密告機関の役割も果たしていたでしょう。

国家にカラビネーロスが抵抗ができなかっただけだとしても、そのことの責任は問われましょう。矯風会が軍部に建物を提供していたにもかかわらず、戦前果たした役割を十分に反省しているとは思えない以上、叩かれるのは当然なのと同じ。矯風会は軍部に建物を提供したに留まるわけではないですし。

現在はそこまでのことはないにしても、今なお関係は強く、憲法もこれに関わっています。条文までは確認できなかったのですが、憲法にカトリックについて触れられていて、それに基づいてカトリックの法律まであります。国家の庇護のもとにあるのです。

カラビネーロスのサイトより

 

 

ただの暴徒と化したプロテスト

 

vivanon_sentenceカラビネーロスは国防省の管轄下にあるため、警察と組織が違って、警察も手出しはできず、市民に対する暴力行為も日常化し、腐敗も進んでおり、いわばチリ版SARSです。

悪評が高いため、民主体制になって以降も、疎んじられる存在であって、だからこそ、ソフトイメージを打ち出しているのでしょうが、今回、ピニェラ大統領がプロテスト潰しに投入した軍はカラビネーロスだと思われます。プロテスターとしては「ピニェラの野郎、ついに本性を現しやがったな」ってところです。

このカラビネーロスの管理下にあり、少なくともピノチェト政権下においては民主化弾圧に関与していたのですから、プロテスターが敵視するのは当然です。

しかし、それでも建造物は文化遺産であって、どうしてもそうしなければならない切迫した事情などないですから、これに火を放つのはとうてい私は許容できません。憂さ晴らしにしかならない。

直接火をつけたプロテスターたちは十名以上逮捕されたようですが、これは当然かと思います。

すでに憲法改正の国民投票が終わっているからいいとしても、カトリックの中にもピノチェト独裁に反対していた人たちもいます。現在はチリ国民におけるカトリックの率は半数を切っており、その影響力は落ちて高齢化が進んでいると思われ、ほっといても凋落していくのだし、新憲法でカトリックの特別扱いは終わらせればいいだけです。

カトリック以外でも、この焼き討ちによってプロテスターへの反発をする人たちは少なくないはずで、今後の新憲法制定においても、決していい影響は与えないのではなかろうか。

たとえばナチスドイツ、たとえば現在の中国や北朝鮮のように民主的な手続きが通用しない国家においては、あらゆる抵抗が肯定され得ると思いますが、現にチリでは国民投票までもっていけて、不正はなかったでしょう。なのにこれをやるのは、メキシコの覆面フェミニストたちと同様に、あとさき考えることができないただの暴徒です。

※2018年12月31日付「elmostrador」 この記事ではカラビネーロスがカトリック教会を支配していると表現し、カラビネーロスは金で腐敗し、カトリック教会は性的虐待で腐敗しているさまを記述しています。

 

 

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