国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP/ナチ)創立一世紀のドイツで吹き荒れる「反ユダヤ」(カッコつき)の動き-(松沢呉一)
「セバスチャン・ハフナー著『ナチスとのわが闘争』」シリーズはまだ続くのですが、それにからめてタイムリーな話題に触れておきます。「ポストコロナのプロテスト」は終了してますが、カテゴリーだけ引き続き使用していきます。
「なぜ」から「どうしたら」へ
セバスチャン・ハフナー著『ナチスとのわが闘争』について私が書いたのは所詮私の読み方でしかないですが、少なからぬ人が「なぜドイツはこんなことになってしまったのか」という問いに対する解答をあの本に見出すだろうと想像します。これだけが正解のはずがないことは言うまでもないとして。
この問いは「どうしたらナチズムの再生を防げるか」という問いにも重なり、「なぜ」を考えないと、「どうしたら」に至れず、「公共の場でハーケンクロイツの使用を禁止する」なんて小手先の方法では対処できないことは、ダス・ライヒのマークがハーケンクロイツの代わりになっていたり、ハーケンクロイツが禁止されていない国でもケルト十字がネオナチ共通の表象になっていて、ハーケンクロイツとケルト十字が併用されていることもあり、それに対抗するアンティファは反ケルト十字にならざるを得ないことでも明らかでしょう。
法に抵触しないマークで代用するだけであり、ダス・ライヒのマークを禁止にできたところで、さすがにケルト十字を禁止にはできない。帝政ドイツの国旗を使っている例もありますが、ネオナチではない保守派も使用してますから、これまた禁止しようがない。
こんなことをやった結果、ドイツでは、表現潰しに対する警戒心が薄くなっているようにも見え、「矮小化」という愚論で気に食わない表現を潰したがる傾向が大臣にさえも出ていて、メディアもそれに追従するお粗末さ。
「なぜドイツはこんなことになってしまったのか」は戦前のドイツのみならず、今現在のドイツにも向けられる疑問ですし、当然、日本に生まれて今も住んでいる私は「なぜ日本はこんなことになってしまったのか」の疑問にもつながっていきます。
※2021年5月14日付「FOCUS」 5月12日、1965年の同日にドイツとイスラエルの国交が樹立された日を記念して、各地の市役所にドイツ国旗とイスラエル国旗が掲揚されたのですが、ゾーリンゲン、ミュンヘン、ボン、ハノーファーなどの都市で、イスラエル国旗が引き裂かれたり、焼かれたりしました。この記事では「移民を入れるとともに反ユダヤも入れてしまった」と書いていますが、そもそもこのタイミングでイスラエルの国旗を掲げる方がどうかしてますし、「イスラエルの国旗を侮辱すること=反ユダヤ」ではないことを繰り返し指摘しておきます。これについては一番下の記事参照。
ハーケンクロイツと無関係な反ユダヤ
たった今ドイツで巻き起こっている反ユダヤの動きを見ればハーケンクロイツと無関係であることは明らかです。
ドイツの反ユダヤの動きはすでにネオナチからムスリムに主導権が移っていることは「コーランを焼かれて怒ったムスリムがユダヤ人虐殺の歌で気勢を上げた—ポストコロナのプロテスト[15]」「ムスリムにおけるアンチセミティズム(反ユダヤ主義)の浸透—ポストコロナのプロテスト[16]」「今現在ドイツのユダヤ人をもっとも迫害しているグループはネオナチではない—ポストコロナのプロテスト[17]」に書いた通り。
読む人がほとんどいなかった不人気シリーズですが、「ポストコロナのプロテスト」は役に立つべ。
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