松沢呉一のビバノン・ライフ

アンチ・ロックダウンの分類—ポストコロナのプロテスト[84]-(松沢呉一)

セルビアに見る左派と右派のアンチ・ロックダウン—ポストコロナのプロテスト[83]」の続きです。

 

 

セルビアのいい点

 

vivanon_sentenceセルビアはいいなと思いました。右派にも左派にもアンチ・ロックダウン派がいます。「右派がやるならオレらはやらない」という左派の選択はプロテストを右派に譲り渡すことです。米国のリベラル系メディアが国外のプロテストまで「アンチ・ロックダウンは右派の陰謀論者がやっている」と決めつけることも同じ。

右派がこれを独占した時に、ロックダウンに疑問を抱く人は右派のプロテストに参加するか、何もしないかどちらかになる。そうなってしまってから、自分の考えに合致する人を集めてプロテストしても、「あいつらはネオナチだ」と決めつけられてしまうだけです。

私自身、消極的アンチ・ロックダウン派ですが、米国では私の居場所がないと嘆いていた通りです。トランプ派もプランデミック派もイヤだし、マスクをするもしないも私が決定するという考え方に対して、「マスクをしろ」と強いる人々とも「マスクをするな」と強いる人々とも相容れない。なんで皆が同じにならなきゃ納得しないのか。

もともとそうではなかったのに右派の主催プロテストに参加した人は右派の考えを吸収してしまって、自身右派になる。現実にそういう人もいそうです。

しかし、セルビアでは右派も左派もアンチロックダウンのプロテストをやっていて、右派も左派もさらに細かく団体が呼びかけていて、選択肢が多く準備されていますから、自分に合ったところに参加すればいい。

私がセルビアにたら、ゲイもどきの私でも居場所のあるNDMBGD(ネ・ダ(ヴィ)モ・ベオグラード)に参加します。

旧東ドイツにおいて、社会からはみ出した若者がヒッピーになるかパンクスになるかネオナチになるかの選択は、本人の資質もあれ、偶然にも左右されました。東ドイツだけのことではありません。人間関係が先行して、思想はあとからついてくる。

アンチ・ロックダウンを右派に譲り渡した国では、右派が勢力を伸ばしているはずです。右派がアンチロックダウンを支配しているわけではないですが、ドイツの極右AfDは党員を伸ばしているわけです。

自分自身の考えとしてそう判断したのならいいのですが、「右派がウイグルについて中国を批判するからやらない」「右派が経済優先を言うから経済軽視」といった人々を見ると、「自分の考えがないんか」と思います。よく私が言っているように、「判断基準が自分の外にある人々」です。これは周りに合わせる、クラスターに合わせるのと同じ思考の裏返し。「私はこう考える」よりも「誰につくか」「つかないか」を優先する。

一緒にやるのがイヤならセルビアのように別々にやればいいだけ。

なお、私の場合は「誰かがやっているなら自分はやらなくていいや」という考えが強いのですが、無駄な作業をやらない、重ねて後追いをしないという意味であって、「誰某が言っているから賛成しない」ということではなく、むしろ先行してやっている人を尊重した上で、その人が拾えていないパートや視点を担当する姿勢です。誤解なきよう。

ネ・ダ(ヴィ)モ・ベオグラードのサイトから、ベオグラードの副市長であるゴラン・ヴェシチ(Горан Весић)を名誉毀損で訴えたことを伝える本年1月11日付の記事。これはコロナには関係がない件で、進歩党の副市長がネ・ダ(ヴィ)モ・ベオグラードのメンバーたちを誹謗中傷する発言を繰り返したことに対するもの。彼らは非暴力ですが、戦闘的です。3人ともマスクをしていますね。

 

 

アンチ・ロックダウンの分類

 

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ロックダウンしても困りはしない「安泰中流層リベラル」の米メディアが、自国だけでなく、他国のアンチ・ロックダウンまでを「陰謀論者」「極右」と見なしていることについてはむかつきます。もっと複雑だっちゅうに。

そういった即製記事に比して、2020年10月15日付「WORLD POLITICS REVIEW」は短い文章ながら、アンチ・ロックダウンのプロテストは多様であることを前提にしつつ、その潮流を整理した大変いい内容です。

 

 

WORLD POLITICS REVIEW」はいいサイトだな。

 

 

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