ゲッベルスの名言「嘘も百回言えば真実になる」自体が嘘、「本当はこう言った」もまた嘘—ゲッベルスは天才[1]-(松沢呉一)
ゲッベルスが言っていない名言
「ゲッベルスは天才」なんて書くと、「何百万人も虐殺したナチスの大物を褒め称えるとは何事か」と怒る人もいるかもしれないけれど、ゲッベルスの有能さを正しく評価して、彼が何をしたのかを冷静に見据えないと、「なぜドイツはあんなことになったのか」「なぜドイツ人はヒトラーを信じてしまったのか」の解答はいつまでもわかるまい。そういう人たちは『夜と霧』でも一生読んどけ。
ゲッベルスといえば「嘘も百回言えば真実になる(本当になる)」という名言がよく知られます。こんなことはゲッベルスは一度も言ったことがないということも知っている人は多いかもしれない。デマなのです。
実際にゲッベルスが言ったのはこういうフレーズ。
大きな嘘を繰り返し続けると、やがて人々はそれを信じるようになる。嘘は、国家が人々を嘘の政治的、経済的、または軍事的結果から保護できる間だけ維持することができる。したがって、真実は嘘の致命的な敵であり、ひいては真実は国家の最大の敵であるため、国家が反対意見を抑圧するためにすべての力を使用することが極めて重要になる。
といった展開をFacebookでも見たことがありますが、当時はまだナチスに詳しくなく、ゲッベルスにも詳しくなかったので、これを読んで、「百回という数字はないにせよ、同じ趣旨のことを言ってるじゃないか」と思いました。名言とされるものの多くは簡略化されていて、名言とされる言葉をまんま本人が言った例の方が少ないのではないか。この場合もデマとまでは言えないと思ってしまいました。
しかし、こちらの言葉も存在しないようです。「本当は」というネタばらしもデマ。
このテクは人を騙すには有効です。まず嘘を言っておいて、続いて「本当は」とネタばらしをされると信用してしまいます。風俗嬢もよくやってます。「店では21歳になってますが、本当は23歳です」と言われると信用してしまいますが、実年齢は25歳だったりします。
※Wikipediaよりヨーゼフ・ゲッベルス
カルヴァン大学のランドール・バイトワーク先生
このゲッベルスの「名言」についてはこちらのブログが検証しています。いいですね、このブログ。こんくらいしつこく調べる人が増えるとデマはそう簡単には広がらなくなります。調べる以前に「疑う」という姿勢があればデマは広がらないし、『夜と霧』もそうは売れなかったはず。
なによりこういう人がいてくれると、私が調べなくて済みます(笑)。
このブログの中に「カルヴァンカレッジのランドール・バイトワーク名誉教授」というのが出てきます。カルヴァンはカレッジではなく、ユニバーシティです(Calvin University)。
ランドール・バイトワーク先生はナチスの研究者で、とくにプロパガンダに詳しくて、ゲッベルスについてはどストレートに専門です。
世界のナチス研究者、ジャーナリスト、ナチス・マニアが愛用しているGerman Propaganda Archiveの運営者・執筆者でもあります。私も愛用しています。このサイトはホントに役に立ちます。難点は中身が濃すぎて、読みきれないってことです。
German Propaganda Archiveでもこのことは触れられていて、私はそれを読んで「ネタばらしもデマ臭い」ということを知りました。
ゲッベルスが言ったのは「真実は常に嘘よりも強い」
この話を知ると、飲み屋の話題として、「あの名言は嘘、実はという話も嘘」というところだけ持ち帰る人たちが多そうですが、バイトワーク先生が書いていることを読んで、「なぜあのような言葉をゲッベルスは言わない」とわかるのかまで理解した方がいいと思います。さもなければ同様のデマにまた騙されます。
膨大な資料に目を通しているバイトワーク先生はゲッベルスのこのような発言は見たことがなく、なおかつゲッベルスはこんなことを言わないだろうとおっしゃってます。ゲッベルスは「プロパガンダは真実でなければならない」と言っていると。
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