松沢呉一のビバノン・ライフ

エクスティンクション・レベリオンにちらつくエコファシズム—ポストコロナのプロテスト[ボツ編4]-(松沢呉一)

エクスティンクション・レベリオンは貧困層のことなど頭にない社会運動」の続きです。2020年9月に書いたものです。

 

 

 

エコファシズムの拡大

 

vivanon_sentence私自身、XR(エクスティンクション・レベリオン)の白人至上主義的傾向を知ってもナチスまでは連想しなかったように、ナチスを信奉するようなタイプが、ナチスの思想の中から、エコロジー部分を引き出す発想には飛躍があるように感じてしまいますが、今の時代にはここにリアリティを感じてしまう人たちがいるようです。

前回見たふたつの連続乱射事件の事件の背景にある今の時代のエコファシズムの潮流とその主張について、2019年8月7日付「VICE NEWS」掲載「Eco-Fascism: the Racist Theory That Inspired the El Paso and Christchurch Shooters」がまとめています。

インターネット上のみならず、右派活動家たちはこの論理をすでに広く共有しているように見えますし、昨日今日始まったことではなく、1970年代にドイツでは緑の党から枝分かれしたエコファシズムに基づく環境保護団体が存在し、これがネオナチやイギリス国民党(ホロコースト否定の排外主義極右政党)に引き継がれたとあります。

1980年代に入ってからかと思いますが、そういえば日本の左翼系雑誌でもエコ運動の危険性として、エコファシズムの特集を組んでいたことがあったと記憶します。買ったようにも思うのですが、どんな内容だったか記憶にない。読んでないかも。おそらく、この辺の動きを踏まえたものでしょう。

そのため、環境運動のリーダーたちはつねに運動が孕むエコファシズムへの傾倒を警戒して、そうならないように団体内での呼びかけをしている旨が「VICE」に書かれています。

それが再度勢力を持ち出していることの背景にあるのは、気候変動による災害の恐怖です。これがナチスを支持したドイツの国民が感じていた共産主義の恐怖の代わりになっています。なぜ環境が破壊されるのか。人口が多いためである。なぜ人口が増えたのか。移民のせいであると短絡していく。

世界的規模で考えた時に、環境破壊が急速に進んでいるひとつの要因は人口増加に一因があるのは事実です。農地や住居の確保、水不足、食糧不足もここからもたらされています。だから各国政府や国連などの機関は人口抑制策をとってきたことは「ビバノン」でも説明してきた通りです。人口が減少する日本ではその実感がないだけ。

これはもっぱらアジアやアフリカの話ですが、あいつらのせいで、白人である自分らまでが絶滅するのだと考え、思い詰めるのが出てくる。ヒトラーを支持したドイツ国民がゲルマン民族はユダヤ人に支配されつつあり、ユダヤが背後にいるロシア革命に恐怖したように。

これらの発想は容易に優生思想にもつながります。

この発想の特殊なところは、自分も環境破壊に加担しているとの意識が欠落していることです。自分や自分が属する集団ではない別の誰か、別の集団が作り出していると考える。そりゃそう考えた方が楽に決まってます。

 

 

XRはエコファシズムの土台を生み出している

 

vivanon_sentenceXRの白人中心主義、労働者階級や移民の軽視、蔑視、あるいはその層への想像力の欠落はエコファシズムにつながる危険性を孕んでいるとの指摘を読んだ時に大いに納得するところがありました。

中国共産党の独裁が続く限り環境破壊は止まらない—ポストコロナのプロテスト[3]」で取り上げたXRのサイトに出ていた「WHAT ABOUT CHINA?」のページに書いていたことがやっと理解できました。

なぜXRは中国の国民が求めてもいないのに(求めているかもしれないけど、ダムができるために村が消えるといった時に住民が反対するような場合以外は表明できない)、中国共産党がすみやかにこの問題に対処する可能性があると見ているのか。

 

 

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