「女子供バイアス」が適切な対策を遠ざける—国際ロマンス詐欺における被害者の男女比[5](最終回)-(松沢呉一)
「なぜ女の被害者がクローズアップされるのか—国際ロマンス詐欺における被害者の男女比[4]」の続きです。
この数字を疑う人はロマンス詐欺にも騙されない
「国際ロマンス詐欺の被害者は女性が多い」などと書いているメディアの中には、以下の数字に惑わされている例があるかもしれない。
2019年02月26日付「ハフポスト」より
7割以上が女性です。
これは前回の最後に出てきた「STOP国際ロマンス詐欺」をやっている
「NPO法人「M-STEP」で2018年5月から12月にかけて、私が立ち上げた「STOP国際ロマンス詐欺」サイト、Facebook、Twitter、アメーバブログなどで詐欺被害を受けた方々を対象に実施した緊急アンケート」とこの記事の筆者である
この「STOP国際ロマンス詐欺」はNPO法人M-STEPが「シングルマザー支援の一環として」運営しているものです。彼女自身が、主ととしてこの活動をやっていて、自分のアカウントで集めた被害者例ですから、女性率が高くなるのは当然です。
この調査がどういうものであり、どういう属性のサンプルだったのかを明示する意味で出しているなら問題はないのですが、筆者自身があたかもこれが被害者全体の実像であるかのように扱っていますから、問題ありです。
たとえば腹痛を起こして、ネットで調べたら、近所に「レディース・クリニック」と称した内科があったとします。よく読むと、「男性も可」とありますが、大半の男はそれよりも遠いところにある内科に行くでしょう。私もそうします。
このクリニックが「当クリニックで受診した人を対象にした調査」において男女比を説明するのは適切として、「日本では腹痛は女性の方が多い」と言い出したら、「おいおい」って話ですね。
この方法でわかることもあるので、こういったサンプルのとり方でもいいのですが、被害者全体の男女比についてはこの方法ではわからない。
属性を固定すると適切な注意を呼びかけることができない
今まで書いてきたように、詐欺師グループからすると、本人に顔を晒す方法をとるのでなければ、男女をあえて分けて、どちらかだけを狙う必要はありません。騙されるのはわずかしかいないのですから、片っ端から狙った方がいい。だから私のところにもガーナ詐欺の誘いやキム・カストロからの誘いがあるわけですよ。
現にオーストラリアの数字では男女にほとんど差がなく、いくらか女性の方が多いのは、男は相談しないのが多いためだろうと想像できます。サイレント・エピデミックを生じさせる原因です。
国際ロマンス詐欺は国境を超えることが多く、日本だけ男女の率を変える必然性がほとんどない。仮にあるとすると、日本国内では「女性被害者は女が多い」と言われていることから、「日本に限っては女の方が警戒心がなく、騙されやすい」と思い込んだ詐欺グループがいるかもしれないことくらい。
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