松沢呉一のビバノン・ライフ

ボッタクリとの比較—国際ロマンス詐欺における被害者の男女比[1]-(松沢呉一)

紀州のドンファンの元妻とか小室なんとかさんの母とか—詐欺が流行り[上]」「ロマンスを求める軍人キム・カストロ(Kim Castro)ちゃんに注意—詐欺が流行り[下]」に書いた「国際ロマンス詐欺」ですが、あれこれ調べてこれもまた「サイレント・エピデミック」の現象である確信を得て、その分析については8割方書いてあったのですが、「サイレント・エピデミック」シリーズ自体、受けがムチャクチャ悪かったのでボツにしました。国外のデータが中心で、数字が続き、なおかつサイレント・エピデミックという馴染みのないテーマだったためでしょう。「国際ロマンス詐欺」もその延長ですから、読む人がいないべ。

しかし、「ロマンスを求める軍人キム・カストロ(Kim Castro)ちゃんに注意—詐欺が流行り[下]」のアクセスがずっと続いているため、「サイレント・エピデミック」ではないアプローチを試みようと、ナイジェリア人を探したら国際ロマンス詐欺のことはまったく知らないカメルーン人だったため、挫折しました。

で、ここに来て今度は中国ネタの受けが悪くて挫折寸前。ここしばらくこればっかり調べていたので、他にすぐに出せるものがなく、ボツにした「国際ロマンス詐欺」の続きを出しておくことにしました。これも最新のボツ復活です。

 

 

 

雇用詐欺に注意

 

vivanon_sentenceあの手この手で人を騙す詐欺集団のテクには感心します。感心してはいけないのだけれど。

各国で被害の大きい詐欺として、「雇用詐欺」というのがあるんですね。日本で「雇用詐欺」「求人詐欺」というと、「いざ働いてみたら条件が違っていた」というものを指すことが多いようですが、ここで言う「雇用詐欺」は、架空の会社をでっち上げて、あるいは実在の会社を騙って求人を出し、応募してきた人に採用通知を出し、その際に銀行の口座番号やクレジットカードの暗証番号を提出させるものです。口座から金を引き出されるだけでなく、その口座を別の詐欺の振込先として利用するものもあるようです。

審査のゆるい求人サイトを利用していて、そんなところに詐欺集団が紛れ込んでいるとはまず疑わないですわね。応募する場合は、社名を検索して、会社の評判や業務内容を調べる人が多いでしょうけど、実在の会社を騙っていると、そこでも疑えない。

架空の会社の場合は会社案内のフェイクサイトも作っていて、電話の対応もできるようになっています。URLで怪しいと見抜けることもあるでしょうが、そういうリテラシーがない人もいます。

会社が暗証番号を知る必要はないわけですが、採用されたことで舞い上がって、そこも疑わない人が出てきてしまう。

この被害者には同情します。しかし、「ロマンス詐欺」の被害者にあまり同情する気にはなれない人が多いのではないでしょうか。私もそうです。

世間一般、ボッタクリ・バーの被害者にあまり同情しないのと同じかと思います。「かわいい女の子がいて、楽しい時間を過ごしたい、あわよくばいい思いをしたい」という欲に目がくらんだのであって、自業自得という思いがつきまとうためでしょうし、「ロマンス詐欺」も恋愛や結婚という欲に目がくらんだのは同じです。

※ここに書いたような雇用詐欺について知ったのは、詐欺のさまざまについて調べている過程で行き着いたカナダ・エドモントン警察のサイトでした。左肩に出ているのが各種詐欺のガイドページの目次です。エドモントン警察に限らず、捜査機関や消費者関連の公共機関が同様のものを作成しており、あくまで警告のためのものですが、読み物としても面白い。面白がってはいけないけれど。

 

 

ボッタクリとロマンス詐欺

 

vivanon_sentence金を払う段の厳しさから言うと、ボッタクリの方がまだしも同情する余地があります。

前に取り上げたYouTuberたちのボッタクリ潜入企画が参考になりますけど、一切払わずに逃げることはできない。「怖い」ってだけではなくて、払わずに逃げると無銭飲食になってしまって、かえって不利になることもありますし、人情として「現に女の子が3人も相手をしてくれたんだから、時給分の合計1万円は払うし、ピーナツ1万円は高いけど、現に食った以上、3千円は払いますよ」になります。あとは交渉。

対してロマンス詐欺の場合、特段のサービスを受けているわけではないですから(「愛している」の囁きもサービスかもしれないけれど)、「おかしい」と気づいた時点で連絡を断てばそれまで。対応しやすいはずなのです。

あとで数字で確認しますが、実のところ、半分怪しみつつ、最初の低額だけを払う人がかなりの数います。気持ちはわかります。私が前にガーナ詐欺と思われる相手とやりとりした時も、「学校の写真や在学証明書まで用意しているんだから、詐欺だとしてもその労力に対して少しは金を払ってやるかな」と思いましたもん。あれはちょっと不思議な心理です。

このタイプの人たちは一度払って、次にまた請求してきたら詐欺だと確定して、連絡を断つ。怪しいと思って誰かに相談したり、ネットで検索する人たちもいるでしょう。目の前の人と交渉しなければならないボッタクリ・バーと違って、相談は容易、連絡を断つのも容易です。

高額の被害に遭っている人はそういう判断が働かない人たちです。その無警戒さも同情を減じてしまいます。

エドモントン警察のサイトより、ロマンス詐欺のページ。この中の警告文。「彼らは早い段階で愛を告白します。疑ってください。まだ会ったこともない人が何度かの会話で愛を告白することがあるかどうか自問してください」 それがわからん人たちですから、どうしても同情できにくくになります。

 

 

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